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カイゼンの先に生まれた「磨きのイノベーション」(株式会社ヤマシタワークス)

突き抜けた「磨きの技術」を求めて、自動車業界や医薬品業界など多様な業界・企業から注目を集めるのが、兵庫県尼崎市に本社を構える株式会社ヤマシタワークスです。

1986年、研磨作業の下請業からはじまった同社が、いかに多くの企業の信頼を獲得しながら成長を重ね、県や国から認められる企業となってきたのか。そして、そんな地域を牽引する同社が描くのはどのような未来なのか、その最前線を追いました。

株式会社ヤマシタワークス
設立 1986年
資本金 1,000万円
従業員数 135名(タイ工場含む)(2021年4月現在)
業種 金型・研磨機製造業
所在地 兵庫県尼崎市西長洲町2丁目6番18号
#地域未来牽引企業 #挑戦と創造 #カイゼン #磨き  


お菓子づくりから見いだした「磨き」の重要性

実は、山下社長のキャリアパスのスタートに「磨き」はありませんでした。
高校卒業後、大手製菓メーカーに就職しキャリアパスをスタートさせた山下社長は、当時配属された菓子製造ラインの生産効率を高めるため、現場で様々なカイゼン提案をしていきました。
その取組が高く評価され、社内では3年連続で社長表彰の改善提案賞を受賞するほどに。

その後、包装部門での包装機器のメンテナンスの仕事の中で、山下社長にとって運命的な出会いが待ち構えていました。それが、機械の生産性を高めるために重要な摩擦部分の機能性を高める「コーティング技術」でした。

コーティング技術
樹脂や薬品等で素材表面を皮膜で被い、素材を保護したり、防腐や防食、防水性能、紫外線カットなど機能性を付与すること。

技術伝承と発展を支援する ものづくりエンジニア向け技術用語サイト『モノシリ』

コーティング技術を深めれば深めるほど、その前処理として部品の「磨き(研磨)」が重要であることに気付いた山下社長の挑戦が、ここから始まります。

株式会社ヤマシタワークス 代表取締役 山下 健治さん

「磨く」プロセスを誰でも、早く、簡単に

「磨き」の重要性に気づいた山下社長は本業である大手製菓メーカーに勤めながら、日中の仕事が終わったあとに知り合いの会社で金型磨きの技術を掛け持ちで学び始めます。過酷を極めるダブルワークを経て磨き技術を習得。そして、1986年、研磨作業の下請けとして「ヤマシタワークス」を立ち上げ独立します。

比較的、後発参入ではありましたが、技術的に難しい小物製品を中心に技術力を高めていった結果、関東や中部地域の様々な金型メーカーからも依頼がくるようになったと山下社長は語ります。そのうち、「図面渡すから金型の作成からコーティングまでしたものを作って持ってきて欲しい」と言われるようになり、研磨から金型の製造・加工にも事業を広げていきます。

しかしながら、「磨く」作業は肉体労働で、社員にかかる負担も少なくありません。「誰でも早く簡単に磨けるようにすれば、社員のためにもなるのではないか」と考えた山下社長は、そこでもカイゼンの発想で全く新しい装置の開発にも着手します。

兵庫県の補助金を活用しながら、10~15分教わるだけで初心者でも扱えて、これまで難しかった複雑な形状にも対応でき、なおかつ加工品へのダメージが最小限に抑えられる鏡面加工装置「AERO LAP®(エアロラップ)」を7年の歳月をかけて開発しました。


「AERO LAP®」で磨いた10円玉(左半分)

社員にかかる負担を減らしたい、という想いで開発した装置でしたが、当時、その優れた性能が新聞にも取り上げられたことで、その日から様々な金型メーカーから問い合わせが殺到しました。

顧客対応の「仕組み」と社内のカイゼンの「仕組み」

「AERO LAP®」の販売にあたり同社が徹底していることがあります。それは、問い合わせがあればお客様に一度同社に実際に来てもらい、「AERO LAP®」でのテスト加工をリアルに体験してもらったうえで販売するという仕組みです。

この仕組みを徹底することで、業界内では実際に体験した方の口コミで同社の技術の高さが話題となり、営業経費をかけずとも多くの企業と取引ができるようになりました。結果、同社には営業目標も営業部門も存在しません。「来社後のフォローとして電話することはあっても、数字は一切追いかけていない」と、山下社長は胸を張っています。

また、併せて会社内の「仕組み」づくりにも着手します。
現場でおきるミスを減らすため、ミスが起きた機械や、誰がいつどういうところでミスをしているのか徹底的に可視化する生産管理の仕組みを整えました。

結果、6%あったミスが1%に減るなど、目に見えた成果は一目瞭然でした。ちなみに当社はISOを取得していません。顧客からISOのことを聞かれても、「自己申告型のISOをしています」と答えて、ISOに匹敵する取組を実際に見てもらうことで多くの信頼を得ています。

自分が褒められるより社員を褒められる方が嬉しい

あらゆる挑戦とカイゼンに努める山下社長が何よりも嬉しいと思う瞬間があります。それは、顧客から社員が褒められたり感謝されたりした時です。

そのように褒められた場合には、必ず朝礼で社員に報告することにしているそうで、「親が子どもを褒められるのが嬉しいように、社員を褒められる方がはるかに嬉しい」、「『社長の経営すごいね』と言われるより『お宅のいい社員さんどうやって育てているの?』と言われる方が嬉しい」と山下社長は大きな笑顔で語ります。

特別な事はしていなくても、社員とのコミュニケーションは欠かさず、いつも現場を回って社員と意見を出し合ったり、「飲み二ケーション」という言葉は当社のためにあるのではないかというぐらい社員と頻繁に飲みに行ったり、日々の社員との交流を通じた「会社づくり」を大切にしています。それが風通しのよい社風の基礎づくり、社員一人一人のモチベーションにもつながっていると感じています。

他社との協働による高付加価値化

磨きの技術を武器に、金型の製造・加工や「AERO LAP®」の製造販売等を進めてきた株式会社ヤマシタワークス。現在は、「AERO LAP®」の更なる高付加価値化にも取り組んでいます。

「AERO LAP®」は誰でも早く簡単に磨けるように開発されたものですが、「今後はロボットが代わりに作業する時代」と語る山下社長。すでに10年前からロボット化に着手していましたが、大手ロボットメーカーから協働の提案があったことで一気に話が進みます。先日、名古屋の展示会で、ロボットと連結した「AERO LAP®」の自動化システムを初めて共同出展したところ、早速来場者から導入の相談がくるなど、手応えを感じています。

名古屋の展示会で初出展した「AERO LAP®」の自動化システム

また更なるマーケットの拡大を目指し、海外展開拡大や医薬品業界への参入強化も推し進めています。現状に甘んじることなく、常に一歩先を見据えながら、「磨きの技術」をベースに現場のカイゼンを繰り返す、ヤマシタワークスの挑戦はまだまだ続きます。


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。


地域未来牽引企業

地域内外の取引実態や雇用・売上高を勘案し、地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれるとともに、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手、および担い手候補である企業を、経済産業省では「地域未来牽引企業」として選定しています。


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