「伝統」と「革新」の融合に挑戦(株式会社京都紋付)
株式会社京都紋付は、大正4年から京都「壬生」で、日本の最高級の正装「紋付」の黒染めを行う会社です。
先代の荒川忠夫さんが「体を切ったら黒い血が出てくるかもしれん」という言葉を残したように、 黒一筋を貫いてきました。
100年前から「黒一筋」
同社は、4代目荒川徹さんの時代から新たに「洋服」の黒染め事業を開始しました。
今回は、同社が紋付の黒染めの伝統を残しつつ、新たに洋服の黒染めを始め、さらにその先を見据えた挑戦への歴史を紐解いていきます。
洋服の黒染め事業への挑戦
黒紋付は、昔から歌舞伎の衣装や卒業式の正装、一般の人々の嫁入り道具として多くの需要があり、ピーク時の1970年代には年間300万反もの市場がありました。
しかし荒川さんは「自分の娘が結婚する頃には、嫁入り道具として黒紋付を持たせる時代ではなくなっているのではないか」と、将来の需要減を予測(現在は年間2000反以下)し、強い危機感を持ちました。
そこで新たに開始したのが洋服の黒染め事業です。
開始当初は手探りで商工会議所や京都市のビジネスコンテストへの応募や展示会出展など、洋服への黒染めの魅力の周知に励みました。
そうした努力が実を結び、徐々に取材やテレビで取り上げられるようになり、知名度をあげていきました。
今では数々の有名アパレルブランドとのコラボや、大企業・大手デパートと連携しプロモーションを行うなど、右肩上がりに成長しています。
洋服の黒染め事業に手ごたえを感じた荒川さんがさらなる飛躍のために2013年から開始したのが、消費者から洋服の黒染めを受注する、通称「REWEAR プロジェクト『K』」です。
「REWEARプロジェクト『K』」と独自技術「深黒」
このプロジェクトは、着なくなった服を黒染めで生まれ変わらせるというコンセプトです。
汚れて着られなくなった服や、デザインに飽きて着なくなった服でも、黒染めにより新たな姿へと生まれ変わります。
「染まり方の予想が出来ない点が、黒染めの面白さ」と荒川さんは語ります。
その秘密は、独自技術「深黒(しんくろ)」に隠されています。
「深黒」は、光を吸収する薬品で生地を加工することで、漆のように艶やかで深みのある黒に染め上げます。
繊維の混合比率によって染まり方が変わるため、その仕上がりは染めてみるまでわかりません。
また、本生地加工には撥水効果があり、洗濯時の色落ちや色移りの心配がなく汚れにも強くなる点や、発がん性の染料を避け、環境にも配慮している点も、現代の価値観に合致しています。
こうした魅力に多くの人が惹きつけられ、消費者からの受注は好調に推移しています。
さらに同社では、「黒染めでの染め替えイメージ」を確認できる二次元コード等を下げ札(タグ)に付し、あらかじめ染め替えを想定した、新しい形のアパレル商品の展開にも奮闘中です。
洋服の黒染め事業を世界へ
同社はさらに、海外進出を目指しています。
その一歩として挑戦しているのが「大阪・関西万博」での共同出展です。
きっかけは近畿経済産業局主催の「伝産サロン」事業で他産地の伝統産業事業者と出会ったことです。
「伝統産業を守っていくために、進み続けなければならない」という同じ想いをもっていた参加者事業者とともに、「革新工芸」というキーワードを掲げて、「大阪・関西万博」への共同出展や、海外展開に向けた取組を進めています。
ただし海外進出で洋服の黒染め事業が今後いくら拡大したとしても、伝統的な黒紋付染事業をやめるつもりはないという荒川さん。
新たな挑戦は、伝統産業の可能性を広げる狙いとともに、技術を絶やさないためでもあります。
そのためにも、若い世代の関心を高めることが重要だと感じており、伝統産業に触れてもらうため、学生の企業訪問を積極的に受け入れています。
現状に満足せず、常に危機感や問題意識を持ち、新たなことに挑戦していく荒川さんに、これからも目が離せません。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。