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前処理2日を15分に!メタボローム分析前処理技術と自動化装置の開発(株式会社アイスティサイエンス)

メタボロームという言葉を聞いて、ドキッとする方もいらっしゃるのではないでしょうか。健康診断で耳にする機会が多いかもしれませんが、実はメタボロームとは「代謝物(アミノ酸・有機酸・糖・脂肪酸など)」を意味する言葉で、アカデミアではもちろんのこと、医学や食品、農業などの分野で、分析対象として活用されています。

しかし、その分析は一筋縄ではいかず、採取したサンプルを分析装置にかけるまでの前処理や、分析作業の繁雑さが課題でした。

そんなメタボローム分析(メタボロミクス)について、時間的コストの解消と煩雑な作業の自動化に成功し、栄えある「第9回日本ものづくり大賞 優秀賞」を受賞されたのが、食品中の残留農薬分析を行う株式会社アイスティサイエンス佐々野 僚一代表です。

株式会社アイスティサイエンス
設立 2006年
資本金 3,000万円
従業員数 16名
業種 分析機器及び周辺機器の製造と販売
所在地 和歌山市有本18-3
#メタボローム分析 #前処理 #自動化 #ものづくり日本大賞

メタボローム分析とは

メタボロームとは「代謝物(アミノ酸・有機酸・糖・脂肪酸など)」を意味する言葉です。そしてメタボローム分析(メタボロミクス)は、生体に含まれる代謝物を網羅的かつ定性的に調べる手法で、医療や食品、農業など幅広い分野で用いられる分析手法です。

このメタボローム分析は、生命化学における研究開発において重要な役割を担っており、アカデミアではもちろんのこと、医学や食品、農業などの分野で活用されています。

この分析を行うためには、採取されたサンプルを分析装置にかけるまでの前処理が必須なのですが、そこに課題がありました。脱水などの工程にかなりの時間を要し、また、抽出などは手作業に頼る工程も多く、前処理だけで2日間かかります。また、作業者の技量によってはデータにばらつきが生じ、一度に多くの検体を扱うため操作ミスも起こしやすいため、分析結果によっては時間の掛かる前処理からやり直して分析しなければならないといったこともあります。

こうした時間的コストの解消及び煩雑な作業の自動化に成功したのが、食品中の残留農薬分析を行っていた株式会社アイスティサイエンスの佐々野 僚一代表です。

2日が最短15分に!前処理工程のプロセス革命 

メタボローム分析前処理の流れは、以下です。

  1. 分析する代謝物を吸着(抽出・生成)、脱水する

  2. 試薬を添加し、分析機器で測定できる物質に化学変化させる(誘導体化)

今回このプロセスを簡素化に成功したポイントは2つあります。

1つ目は前処理時間の劇的な短縮を可能にした「固相誘導体化法」の開発です。従来は試験管などの容器で分析したい目的物の抽出から誘導体化まで行っていたところ、この手法では、目的成分に特異的に吸着する樹脂(固相)を充填した固相カートリッジ中で脱水から誘導体化(化学反応)までを行います。このことにより、従来の方法では2日間かかっていた工程を,最短15分に短縮、また分析精度の向上にもつながりました。



従来の前処理方法との比較

2つ目は前処理から測定までを一気通貫で行うことを可能にした「オンラインSPE-GC/MSシステム」の開発です。先ほどの固相誘導体化法を用いることで、従来は手作業で行っていた煩雑な工程の自動化に成功しました。さらに自動で固相から溶出液を直接分析機器に注入し、前処理の工程後に自動で分析を行うシステムを開発しました。

これら前処理から分析までの一連の作業をロボットアームに行わせることで、オンライン制御で完全自動化させ、技術者の負担を減らし、個人差なく前処理から分析まで行うことを可能にしました。

研究への貢献

今回開発した前処理システムは、すでに、多数の大学や研究機関、様々なメーカーへの導入実績があり、裾野が広いメタボローム分析市場も拡大していくと言われています。

また、今後は「固相誘導体化法」のさらなる発信やアカデミアとの連携、さらにメタボローム分析におけるサービスを拡大していく予定です。

本技術の成果は、世界中で行われているメタボローム分析による多くの研究を飛躍的に加速させるものです。和歌山から世界に向けてメタボローム分析・化学分析でのますますの貢献が期待されます。

メタボローム分析が期待される分野と目的

- 受賞者メッセージ -
分析化学の事業を通じて世の中に貢献するために17年前に創業いたしました。その間、吸着剤を使用した固相抽出という技術を用いた食品中残留農薬の分析法の自動化を開発し上市してまいりました。今回はその技術を応用することで、生体内の代謝物の分析において前処理2日を15分にする新技術「固相誘導体化法」を開発。日本のみならず世界のメタボローム分析の標準法となるよう引き続き精進してまいります。


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。

2023年4月に発表された「KIZASHI vol.22『第9回 ものづくり日本大賞編』」では、2023年1月に決定した第9回ものづくり日本大賞受賞者のうち、近畿ブロックから受賞した10案件の取組をご紹介しています。

今回の受賞者の皆様も、それぞれの技術力を存分に活かしながら、その新規性と革新性、豊かな発想力によって、「ものづくり」を通じた様々な社会課題の解決に貢献されている、そんな姿を特集しました。

https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei22.html