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鉄工所が作るクラフトビールでこどもたちの未来を応援する~創業100周年へ向けて~(株式会社北海鉄工所)

今、ある鉄工所が作ったクラフトビールが巷で話題になっている。
鉄工所とクラフトビール、一見関係の無い取組を行うのが、大阪府岸和田市に本社を構え、今年創業77周年を迎える株式会社北海鉄工所である。

北海鉄工所といえば知る人ぞ知る、鏡板(かがみいた)(※)で国内シェア50%以上を誇る国内トップメーカーであり、世界最大規模の圧力容器用鏡板を製造できるなど、世界からもその技術力は高く評価されている。

鏡板(かがみいた)
高圧ガスタンクやタンクローリー、飲料水の貯蔵タンク、原子力分野における圧力容器などの端部に多岐にわたって使われる、「鏡餅」の形に似た半球形状の部材。

当社が誇る6000tプレス(左)と、製造する鏡板(右)

また鏡板以外にも「景観製品事業」「車両部品事業」など様々な製造事業を手がける当社であるが、中でも特徴的な製品として、神戸の新長田駅前にある「鉄人28号」や神戸開港150周年記念の「BE KOBE」などのモニュメントがある。実はこのモニュメントについても、鏡板で培った「高度な曲げの技術」を活かして当社が製造したものである。

鉄人28号(左)とBE KOBE(右)モニュメント
製作途中の鉄人28号

そんな当社が、なぜ今クラフトビールなのか?
その背景や思い、そして創業100周年に向けた思いを、林孝彦社長に話を伺った。

林孝彦社長

株式会社北海鉄工所
創業   昭和21年(1946年)4月28日
資本金  2億8,600万円
従業員数 126名
業種   鏡板・景観製品・鉄道車両部品及び関連製品の製造
所在地  大阪府岸和田市臨海町20番地18
#地域未来牽引企業 #鏡板 #クラフトビール #鉄人28号


クラフトビール製造のきっかけはビール醸造用のタンク作りから

当社は元々、造船を中心とした溶接全般を請け負う製缶業から事業をスタート。使用する鏡板は別の業者が製造したものを購入する立場であったが、品質や納期/価格面などで問題が多かったことから、それであればと鏡板の自社製造に踏み切り、そこから幾多の困難を経て国内トップシェアまで育て上げてきた。

長年にわたり鏡板の製造で培ってきた高い技術を持つ当社であるが、その技能伝承が大きな課題の一つでもあると考えていた。
そこで、「技能伝承」と「お客様目線のものづくり」のために2017年に社内で「タンク作りコンテスト」を実施。
鏡板の多くはタンクメーカーへの販売が多いことから、タンク作りをテーマとして行うことでお客様目線に立ち返りながら技能伝承も図ることのできた、有意義な大会となった。

コロナ禍で開催できない期間を経て、次なる技能伝承の手法を検討する際に「前と同じことをしても面白くない」と考え、「ビールタンク作ってみんなでビール飲もう」と思い立ったことをきっかけとしてクラフトビール製造は始まった。

思い立って調べていく中で「ビールタンクを製造する国内メーカーは少なく、ほぼ海外製ばかり」であることも判明。「国産ビールタンクのニーズはあるはず」と気づきを得たことも、ビールタンク製造開始の後押しにもなった。将来的にはクラフトビールのみならず、ビールタンク販売も手掛けることまでも視野に入れている。

岸和田ビール(左)と自社製タンクのビール工場(右)

クラフトビールのこだわり

クラフトビールは一般的に味の癖が強く好みが分かれるものが多いため、「多くの人に飲んで欲しい」ということを意識して、飲みやすさにこだわった。
その結果、岸和田市内を中心とした多数の飲食店が「協賛飲食店」として本ビールを取り扱っており、また小売店でも取扱店舗が増加中。
また既に「岸和田ブランド(※)」として認定されており、ふるさと納税の返礼品としても採用される等、順調にファンも拡大していっている。

岸和田ブランド
「岸和田らしさ」を備え、優れた産品として一定の基準に適合すると岸和田ブランド認定委員会が認めたもの。

岸和田市HPより

クラフトビール製造を通じて岸和田に恩返しを

これまで約50年岸和田で事業を行っており、岸和田に恩返しをしたいとの思いから本クラフトビールは「岸和田ビール」と命名。
本クラフトビールの収益の一部は、製造開始当初より岸和田の子供たちの支援団体へ寄付を行ってきた。

2023年8月には林社長の「岸和田のまちの未来を担うこどもたちが孤立せず、地域のつながりの中で健やかに育ってほしい」との思いに賛同した岸和田の経済人が集結し【こどもMIRAI基金きしわだ】を設立。
岸和田市は生活保護世帯が府下2位ということもあり、まだまだ支援を必要としているところも多く、今後は本基金を通じて岸和田の子供たちのために支援を行いたいと考えている。
「岸和田に恩返しをしたい」という思いは、「岸和田ビール」を通じて着実に具現化されていっている。

創業100周年に向けて

今年で創業77周年であり、目指し続けていた「100年企業」がいよいよ目の前まで近づいてきている。100年企業達成のためには各事業部門が止まることなく成長を続けていくことが大切だと林社長は語る。
鏡板は国内全体の出荷量が年々減少トレンドにあるなど、事業環境の変化もある中で、素材の変更や加工などの高付加価値化への挑戦を続けている。景観製品事業についても、万博・IRなどの成長機会はあると考えており、国内シェア80%超を持つ車両部品事業においても、海外マーケットに更なる活路を見い出しているなど、各部門共に常に成長を意識して取り組んでいる。

ビール事業においても2023年10月に限定2,000本の特別なビール「鳳梨(ほうり)IPA」を発売。「岸和田ビール」ファンのお客様からの声をヒントに生のパイナップル果肉をふんだんに使用して醸造。パインの香りと甘みが絶妙なバランスのフレーバービールとなっている。これからも季節限定品の発売なども構想にあり、商品ラインナップの充実にも取り組んでいく。

限定2,000本のパイナップルビール「鳳梨(ほうり)IPA」

当社の歩みはこれからも留まることを知らず、既存事業の成長はもちろんのこと、新事業にも果敢に取り組み、創業100周年に向けて突き進んでいく。


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。


地域未来牽引企業

地域内外の取引実態や雇用・売上高を勘案し、地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれるとともに、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手、および担い手候補である企業を、経済産業省では「地域未来牽引企業」として選定しています。