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新商品「月食」誕生秘話~信楽焼に込められたストーリー~

こんにちは。近畿経済産業局 地域ブランド展開支援室です。

近畿経済産業局では、世界に羽ばたくブランドとなることを目指して関西の地域ブランドのうち、12のモデル地域を対象として、支援に取り組んでいます。

12の地域では地域ブランドを担う方々は、各々が持つ地域ごとの特性や歴史、文化的背景を元に国内外の新たな市場に展開していくべく、事業を展開されています。

今回取り上げるのは信楽焼と、信楽焼の技術が詰まった新商品です。


「日本六古窯」に数えられる信楽焼

12の地域ブランドの一つ、信楽焼

滋賀県は、甲賀市信楽町で作られている陶器です。古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの産地(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称である、「日本六古窯」の一つに数えられています。

伝統的な信楽焼はこの土地特有の土味を活かし、薪窯焼成によって得られる緋色 (スカーレット)の発色や自然釉、焦げの味わいが特徴です。

それに加え、優れた陶士や地域で長年培われてきた卓越した技術を基に、時代時代にあった製品や作品をつくり続けている産地です。

この度、難波・千日前道具屋筋に店舗を構える食器専門店、千田硝子食器株式会社(大阪市中央区)から、信楽焼の技術が詰まった新商品「月食」が誕しました。今回はその開発ヒストリーに迫ります。

信楽焼の技術が詰まった新商品「月食」

大切なのは”熟練の技”を感じられるか

新商品を開発された千田硝子食器株式会社 専務取締役 千田 彰宏さんにお話を伺いました。

お話を伺った千田さん

(千田さん)
「弊社は1948年(昭和23年)創業し、業務用食器やガラス食器を中心に取扱い、千日前道具屋筋内の飲食店を始め多くのお客様の要望に応えて参りました。昨今は、国内のお客様のニーズが多様化しており、従来の製品の域にとどまらない、付加価値の高い商品展開が求められています。弊社でも熟練の職人とコラボレーションを実施し、商品を展開しています。」

千田さんは、「信楽焼」とコラボレーション・商品開発を実施しようと思ったきっかけについて次のように語ります。

(千田さん)
「弊社で過去に実施したコラボレーションでも、食器そのものだけではなく、食器を作る熟練の技術を感じられることを大切にしています。信楽焼の産地の話を聞いたとき、歴史ある産地として培われてきた技術力をベースに、ものづくりを大事にされていると感じました。過去に信楽焼の食器を取り扱ったことはありましたが、商品を求めに産地を訪問したことまではありませんでした。今回の取組を進めるにあたり、信楽焼そのものや信楽焼が製造されている現場を、自分の目で見てみたいとも思いました。」

本コラボ以前に販売されている同社商品の「環-tamaki-」。節目のお祝いに彩りを添える逸品だ。

産地たらしめる職人

商品開発に取り掛かる前に、信楽焼の産地を訪問した千田さん。

実際に産地や製造現場を訪れたことで、信楽焼に対してどのようにイメージが変化したのかお聞きしました。

(千田さん)
「信楽焼で第一に思い浮かぶのは、いわゆる「緋色」でした。緋色の食器・商品が多く展開されているのかと思いきや、実際に産地を訪問してみると、緋色に限らない多様な色合い、鮮やかさを魅せる食器が作られていることを知り、コラボレーションアイデアが広がるのを感じました。」

(局)
現地訪問では、陶器づくりの現場も見学されたと伺いました。どのような想いを持ち、試作に進んだのでしょうか。

(千田さん)
「信楽焼を作られている製造現場で、作り手・職人の方が製造される姿を見て、作り手・職人の技術力があってこそ、ものづくりがなされていること、信楽焼が成り立っていることを改めて実感しました。今や食器に限らず、日用品など商品を希望すれば容易に購入することが当たり前になっています。その一方で、それを下支えしているのは、作り手・職人の技術力にほかなりません。作り手・職人があってこそ、商品が完成している、こういう取組にしたいと強く思いました。」


時代時代にあった製品や作品をつくり続けている産地、信楽焼。
千田さんの想いが少しずつ形になり始めました。


(千田さん) 
「職人技が光る信楽焼にとって、自分が思い描く食器を完成させることは、簡単なことだろうと思っていましたが、実際のところはそうではありませんでした。作りたい食器に対応できる技術を持った窯元さんと連携する必要があることが分かったのですが、各窯元は各社の特徴を活かした陶器づくりを実施されていて、産地内の窯元の情報を広く把握している地域の卸会社さんと連携することができたことで、この点をクリアできました。」

(千田さん)
「信楽焼の産地で培われてきた技術力が可能にした今回の商品開発。これまでにはない、付加価値を持った商品を作っていただいたと自信を持っています。」

難波・千日前道具屋筋に店舗を構える食器専門店、千田硝子食器株式会社 千田さんが業務用・消費者向けの商品販売の継続により養われた視点による信楽焼の可能性を広げる発想と、それを形にすることができる信楽焼の産地の技術力の高さ。これらが相まって、今回のコラボレーション・商品開発が実現したと言っても過言ではありません。

銀の色合いが特徴的な”銀天目”

今回開発された商品の一番のポイントは、何と言ってもこの色合い

伝統的な信楽焼を表す色は、緋色(スカーレット)に代表されますが、信楽焼の産地では市場ニーズの多様化に伴い、釉薬技術にも継続して磨きをかけてきました。
商品開発段階で、千田さんが注目したのが、この色合いでした。

銀の色合いが特徴的な今回の新商品。銀天目という鉄成分を多く含む釉薬を用いています。製造過程で起こる化学変化や焼き具合の変化を受けやすい釉薬であり、取扱いが比較的難しい釉薬の一つになりますが、今回の商品開発においてもこれまで蓄積されたノウハウが商品化を可能にしました。

(千田さん)
銀天目の色合いは、一目見たときに、惹かれました。今回作りたいと思った、まさにぴったりの色合いです。」

『月食』
これが、今回の商品名です。
開発された食器は3種類。具体的な利用シーンをイメージを千田さんに伺いました。

(千田さん)
「自社が取り扱う業務用食器の形状について改めて考えたとき、具体的な利用シーンはイメージしつつも、汎用性の高い食器にすることで、多くの方に食事を楽しんでもらいたいなと思いました。和食・洋食・茶菓子。これまでの卸の経験を踏まえ今回の3種類のサイズ展開がぴったりだと考えました。お皿の表面をフラットに仕上げること、微細な形状の加工、これらは当たり前のように感じますが、粘土が焼かれる際に縮む度合いを考慮する必要があり、信楽焼の産地メーカーの技術力が可能にしてくれました。想いを形にする。この技術力の高さを改めて実感しました。」

(局)
今回開発された食器は、どのような方に手に取っていただきたいですか。

(千田さん)
「今回出来上がった食器は、国内の既存の業務用のお客様に加え、インバウンドのお客が増えているため、インバウンドで大阪・千日前道具屋筋を訪れられる方にも購入していただきたいと思っています。信楽焼でこのような食器も作ることができる、という技術力の高さを多くの人に知っていただき、信楽焼の魅力発信にもつながることを願っています。」

信楽焼について

信楽焼の歴史は鎌倉時代に始まったとされています。信楽焼の土の特性から、風呂釜などの大物から小物まで幅広い製品に対応できるのが特徴です。

1970年、大阪万博のシンボルとして制作された「黒い太陽」は信楽の技術が駆使され技術的、歴史的価値を上げ、2019年に放送された連続テレビ小説「スカーレット」の舞台としても、産地は大きく注目されました。

信楽焼の産地を訪問いただく際は、当室Instagramのアカウント情報もご参照ください。

千田硝子食器について

1948年(昭和23年)、道具のまちとして有名な大阪・千日前道具屋筋商店街に創業。

「天下の台所」「くいだおれ」の街と呼ばれる大阪。道具屋筋ではプロの目利きにかなった道具で食の文化を支えてきました。同社は、老舗ガラス食器店としての誇りを持ち、幅広いお客様のニーズに日々応えています。

メーカーとの信頼関係と商品調達力、サンドブラスト加工技術を生かし、千田硝子食器独自のオリジナル商品を企画・制作にも積極的に取り組んでおり、そのうち、冷香-reico-は、2023年に開催された「G7大阪・堺貿易大臣会合」にて贈答品として使用されました。

また、当店で扱うガラス・金属商品への名入れやオーダーメイドでの製造にも対応しています。

店内地下に併設したサンドブラスト工房「Senda Art Craft 彩 irodori」では、名入れ加工、オリジナルグラスの制作やグラスアートの体験を開催しています。詳しくはHPより、ご確認ください。

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