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一人一人がワクワクしながら学び考え続ける。それが顧客満足に変わり利益につながる(シリーズ:地域と価値とビジネスを巡る探求と深化 関西編)

金山さんが代表を務める株式会社シカケは、道の駅の再生や立ち上げ支援などをはじめ、「お店が大行列になる・地域に人が来る、人が豊かに働ける」といった人が元気になる「世のため、人のため」、活動できる「シカケ」を創る会社だ。

近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第5回は、株式会社シカケの代表を務める金山宏樹さんです。

金山 宏樹
株式会社シカケ 代表取締役

兵庫県南あわじ市生まれ。
南あわじ市出資の第三セクター会社に入社。EC 事業部を経て2014年6月より飲食事業部の取締役に就任。
同社退社後、株式会社シカケを設立。

取材日(場所):2024年2月(於:道の駅若狭おばま/福井県小浜市)

同社を起業する前の金山さんは、2012年にご自身の出身地にある兵庫県南あわじ市が出資し、「道の駅うずしお」や「うずの丘大鳴門橋記念館」といった道の駅や観光施設を運営する第三セクターに入社した。そこでSNSマーケティングや看板商品開発を行い、新規事業なしで業績をV字回復させることに成功。

道の駅うずしおの看板商品となった「白い海鮮丼」

これらの経験を踏まえて、2017年にブランディング・集客をしたい全国の自治体、事業者を支援するため株式会社シカケを設立した。

「全国に1,213カ所ある道の駅のうち、およそ1/3が赤字で、その運営主体の多くが第3セクターである場合が多い」と金山さんは話す。
同社では、このような施設の運営支援など幅広く手がけつつ、道の駅再生人として各地を飛び回りながら、来訪されるお客様が非日常を感じる空間(売り場ではなく「お買い場」)を、そして、携わる施設のスタッフたちが自立的に働ける組織を全国に増やし続けている金山さんに、社会的な価値と利益とは何か、という問いを投げかけ、彼が支援を行っている「道の駅若狭おばま」でインタビューは始まった。

目指す姿は、自立型の組織

私が道の駅の事業立て直しを行うときには、「スタッフのマインドセットの変革」、「商品知識の向上」、そして「常に新商品を取り入れる」という3つの軸が不可欠である。中でもマインドセットの変革は重要だ。

引き合いを受ける地方部の道の駅でよくあるのは、スタッフの給料はさほど高くなく、仕事にもやりがいを感じていないケースだ。そもそもこの社会には、人の役に立つことで、堂々とお金を貰える仕組みがあるということを、最初に教わっていないのだ。だからこそ、支援先のスタッフに、「自分で考えて行動すること、それが人の役に立つ。すると、仲間やお客様から褒められ、結果、お金を稼げるようになる」という流れを実感してもらうことが大切だ。

ひとりひとりにやりがいが生まれ、仕事が楽しくなるサイクルを組織の中につくっていく事が、私の仕事だ。お客様の来店時に無言だったスタッフも、やりがいを持つと、来店を有り難いと思い、「今日はこんな商品がありますよ」と積極的にお声がけするまでに変化する。人の役に立つ経験を積むうちに、お客様の生活を幸せにする過程に貢献できることを、喜びに感じるようになるのだ。

「道の駅若狭おばま」の店内には、主任の湯口さんがつくった商品POPが数多く並ぶ。独学ではじめたPOPづくりが金山さんのアドバイスで磨かれ、生産者と顧客をつなぐ架け橋に変わっていった

ただし、全てのスタッフが早々にこの喜びを感じられる訳ではない。「2・6・2の法則」というものがある。どんな組織や集団でも、貢献度の高い2割、平均的な6割、低い2割の人がいる、というものだ。

だから私は立て直しの際、スタッフ皆で、各々が仕事に感じる不満とその改善点を共有するワークショップを行い、貢献度の高い2割や、平均的な6割の人の把握に努める。特に前者は「この組織をなんとかしたい、自己成長したい」という気持ちが強いので、自分で練った解決策を実行してもらう。結果、お客様の反応や、職場に生まれる良い変化を実感しはじめると、人はどんどん変わっていく。

そうした変化が、徐々に他の人々にも伝播し、自立型の組織は出来上がっていく。「人の役に立つこと」こそが、本当の意味で、「生産性が高い」という事なのだ。

ワクワクしながら働けている状態が、一番の利益 

近年、道の駅の再生支援には、私たち以外にも、さまざまな事業者が取り組み始めている。ステークホルダーも複雑で、課題解決は困難と思われていた領域に挑戦する人が増えた事は、素直に喜ばしい。私自身は「誰も目をつけていない面倒くさい問題」に手をつけることにやりがいを感じる性なので、事業を通じて、支援先のスタッフのマインドセットが変わり、「私たちが離れても、利益を出し続けられる状態」になることが、私たちへの信頼となり、新たな仕事につながる状態が理想型だ。

要は、私は「人が変わり、成長していくこと」が好きなので、そういう人が世の中に増えていく事が、最大の利益かもしれない。

自身も成長と利他のために学び続ける。スタッフも、自身とお客様のために学び続ける。向き合う相手との間で、互いの学習回路が開いている状態。それが結果として、お客様の満足度や組織の売上、利益として見える形に結びついていく。これほどワクワクすることはない。 

株式会社まちづくり小浜商品開発部の森下さん。金山さんと共に働きながら、ご自身の価値観や道の駅のスタッフが変わってきたその変遷を語っていただいた。

逆に、ワクワクしていない状態、つまり、成長のための学習や思考が停止している状態こそ一番利益がない状態だと考えるし、今の社会の仕組みは、そんな人を多く生み出しているのではないかという危機感が私にはある。

金山さんと共に働く人の声
「金山さんは1個1個現場が出来るように階段を踏ませてくれるんです。だから、こっちも成功体験をいくつも積むことができ、現場スタッフは、どんどん自分で進化し始めます。進化し始めるタイミングでその時のちょうど良い考え方を教えてくれる。信頼がどんどん高まります。」

株式会社まちづくり小浜 商品開発部・部長 森下 泰裕さん 

だから、支援先のスタッフには常に「大行列を想定して店を作ろう」と公言している。現状維持が目標だと、原因の追求や抜本的な改革は思いつかない。誰もがイメージとして共有できる「大行列」を目標に掲げることで、スタッフが自発的に、大行列に必要なものはなにかを考え、店はどうあるべきか、競合は何をしているのかを調べ、行動するようになり、結果、売上は大きく伸びていく。スタッフ一人ひとりが、ワクワクしながら学び考え続けている状態が、顧客満足や利益となり、返ってくる。このサイクルを止めない事が、何より重要なのだ。

金銭的利益の行方が重視される時代

そうはいっても、事業として金銭的利益は最重要である。事業とはそもそも利益を出して存続させることが第一。その中でどれだけ世の中に貢献できているかが求められる。ただ、利益を出す過程において、その担い手たちがワクワクできていなければ、結局事業は継続していかない。

私は道の駅の再生事業を多く手掛けているが、すべての道の駅を何がなんでも存続させるべきとは思っていない。いらないものは無くしていくべきだとも思う。利益を生み出せないものはいらないと誰かが言わなければいけないし、「損切り」は誰かがしなければならない。今後高齢化社会でますます人口減になることが予想される中で、自治体や、運営する第3セクターは、道の駅を、投資意義を考えた上で整備する必要があると感じる。

道の駅に求められるもの
「道の駅」制度創設から30年が経過し、施設の老朽化・陳腐化といった課題への対応 のため、リニューアルに対するニーズが高まっている。

「道の駅」に求められる 多様なニーズ・課題への対応(2024.6 国土交通省)

やりがいを大事にしている私がこういうことを言うのは変かもしれないが、利益は「出すべき」ものである。さらに言えば、その使い道こそが重要なのだ。

道の駅若狭おばまでお話してくれた金山さん。この道の駅の入り口では若狭国と京都を結ぶ「鯖街道」の行商人が使っていた傘や籠のモニュメントが出迎える。

いざという時に利益を貯め込むという思考停止の姿勢ではなく、生み出した利益を人件費に充てるのか、販管費に充てるのか、次世代の未来の投資に充てるのか。付加価値をどこに・どのような形で分配しているのかという視点は、今後の日本でも厳しく見られていくのではないだろうか。


KEY PERSON PROFILE

シリーズ:地域と価値とビジネスを巡る探求と深化

日本は人口減少という社会の大きな構造変化に直面しています。特に地方経済に目を向けると、少子高齢化の進展と若者世代の首都圏への流出の加速、加えて価値観の多様性やVUCAといった、多様かつ複雑な課題への対応が迫られています。

経済産業省では「産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」において、我が国経済の長期持続的な成長環境を構築すべく「国内投資拡大、イノベーション加速、国民所得向上の3つの好循環」を実現のため、地方と都会、大企業と中小企業といった格差解消を成長につなげつつ、域内需要の減少をもたらす少子化を食い止める「地域の包摂的成長」という考え方を重視しています。

それを受け、近畿経済産業局では「今、地域・社会の価値向上につながる営みとは」「それを担い得る人物とは」について、様々な活動の実際から示唆を得るべく2020年度から本事業を開始しました。その中で、地域の魅力を捉え直し、強みに変え、内外の人々を巻き込み、プロジェクトを推進する「キーパーソン」の存在を捉え、その素養や行動様式などについて解像度を高めながら、多様な地域・場で活躍する様々な「キーパーソン」を発掘してきました。

KEY PERSON PROFILE(キーパーソン探訪&リサーチレポート)

本稿は「KEY PERSON PROFILE 3 地域と価値とビジネスをめぐる探求と深化 自分と社会の関わりしろを捉え価値づくりに臨む十三人による探求(令和5年度)」に掲載の記事を再編集して掲載したものです。