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患者のQOLを高める、チタン合金製カスタムメイド「人工骨幹」の開発(ヤマウチマテックス・エンジニアリング株式会社)

ヤマウチマテックス・エンジニアリング株式会社は、チタン加工の専門集団です。
チタンは軽量で耐食性に優れていますが鉄の2倍の強度を持っており、加工が難しい素材です。
そんなチタンの加工技術と厳格な品質管理ノウハウを、同社は繊細さと機能性が求められる眼鏡材料の製造・加工事業で磨き上げてきました。

ヤマウチマテックス・エンジニアリング株式会社
設立   2010年
資本金  500万円
従業員数 19名
業種   チタン線材加工・チタン合金3D積層造形
所在地  福井県福井市問屋町2丁目22番地
#骨再建材料 #眼鏡用材料メーカー #福井県工業技術センター #公設試との連携のもと躍進する企業


金属3Dプリンタの導入で医療機器分野に参入

同社は、チタン加工技術の強みを活かした自社製品の開発等を通じて、経営の多角化を図りたいと考えていました。
そこで、新たに導入した金属3Dプリンタと、自社の技術力を掛け合わせることで強みを打ち出せる用途を探るべく、様々な分野の学会や展示会等へ参加していました。

その中で、富山大学安田剛敏准教授が研究する、骨悪性腫瘍に対する「骨腫瘍を切除し、骨欠損部を再建する治療法」が目に留まり、強度や生体適合性及びカスタムメイドが求められる点で3Dプリンタを活用した同社のチタン加工技術を活かせると考え、この人工骨幹の開発を決断しました。

医者と患者双方の負担軽減に寄与する人工骨幹

近年は医療の高度化により、がん発症後の余命が延長しています。
それは同時に「病気と共存する期間も伸びる」ことを意味しており、転移への対応や患者のQOLへの配慮が一層求められると言えます。

上腕骨悪性腫瘍を切除する場合、肩関節は無事でも関節も含めて切除し、人工肩関節を使用し上腕骨を再建するのが主流となっています。
この再建方法では、人工関節による腕の動きの違和感が患者のQOLを低下させていました。
安田准教授の研究は、肩関節を温存して腫瘍に侵された骨幹のみを切除し、カスタムメイドの人工骨幹で切除部分を再建する手術法です。

切除部分を再建するCRAD®上腕骨用カスタムメイド人工骨幹

産官学連携の研究開発及び保険適用に向けた取り組み

未知の医療機器分野へ飛び込んだ同社は、経済産業省のサポイン事業(※)等の補助金や、大学、公設試を活用して開発を進めました。
安田准教授の卓越したアイデアを具現化するべく、富山大学協力の下での臨床研究や、福井大学ならびに福井県工業技術センターの強度等の評価やサポート等を受けて共同研究を推進しました。

https://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/

(※)サポイン事業
中小企業が大学・公設試等の研究機関等と連携して行う研究開発、試作品開発及び販路開拓への取組を支援する事業。
令和4年度より、「Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)」に統合

https://www.chusho.meti.go.jp/sapoin/index.php/about/


また、研究に並行して、人工骨幹の耐久性や製造段階の異物混入対策のほか、各種認証等の取得に向けた厳格な検査への対応や、不測の事態を想定した生産体制の構築等のステップを着実にこなし、開発から約7年後の2023年3月に保険適用可能な人工骨幹が完成しました。
3Dプリンターによる人工骨幹の製作期間は約2週間かかりますが、患者の日常生活動作の向上が期待されています。

国内未開拓の動物医療分野への挑戦

同社の次の展開は、得意とする繊細な加工技術が生かせる小型犬の人工骨の開発です。

(左)ネイルタイプ(右)プレートタイプ

日本では犬用の人工骨の研究は海外ほど進んでおらず、輸入品かつ自由診療による高額の治療費が飼い主の大きな負担となっています。
さらに海外製品は大型犬向けの製品がメインであり、小型犬をペットとして飼う家庭が多い日本では、人工骨の入手はより困難となっています。

今までの研究開発で得た多大なデータを犬用に転用しつつも、これまで研究を進めていた「人」とは違う「犬」に特化した研究を重ね、日常診療における使用の目標時期を2025年に定め、動物病院との連携により開発を進めています。

公設試担当者のコメント
医療分野の技術開発については当センターにおいて力を入れている分野に位置づけています。
人工骨幹の強度評価および強度が出ていない場合の原因究明を金属AMの知見も踏まえて行いました。また、医療機器の検査に対応する検査機器等は厳格な規定があるため、当センターにおいて対応不可能な場合は、全国でも適格な機器を保有する公設試が限られることから、全国の公設試のネットワークを活用し、企業のご要望に合う機器を提供できる施設を紹介しました。
(福井県工業技術センター)


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。

2023年11月に発表された「KIZASHI vol.23『公設試との連携のもと躍進する企業』編」では、公設試の活用をきっかけに躍進している、食品加工や医療機器、金属加工など幅広い業種の中小企業等11社を特集しています。

事業環境の変化を捉え、多様な課題解決や新規事業の開拓に挑戦する11社の熱い想いと、またその想いを受け止め、悩みの本質を引き出して一緒に考え、実現に向けてサポートする公設試の姿を感じていただき、公設試をよく知らない、もしくは、敷居が高いと感じて利用を躊躇されている方に、ご覧いただければ幸いです。

https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei23.html

公設試のすすめ2023

近畿経済産業局では、当局管内に立地する工業系の公設試の紹介冊子「公設試のすすめ」を作成し、各公設試に設置してある多様な機器の説明、依頼試験や技術指導などの支援メニューの利用方法をわかりやすく紹介しております。
また、先端技術の活用を期待できる、産業技術総合研究所関西センターの紹介もございます。本ガイドブックを御覧いただきまして、一番近くで頼れる技術相談窓口「公設試」を積極的に気軽にご活用ください。


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