金属部品の強度・靭性を向上する「水素抑制浸炭焼入技術」(國友熱工株式会社)
國友熱工株式会社は、金属の熱処理・表面改質加工、特に炭素を金属表面に高温で浸み込ませて硬化させる「浸炭処理」に強みを持つ企業です。
豊富な加工実績及びデータの蓄積から開発した技術は、多様なニーズに対応することができます。
また、大企業の熱処理認定工場として、厳しい環境下に耐えうる硬度や耐摩耗性等が求められる部品の加工を担っています。
豊富な実績とデータに基づく技術による金属熱処理加工
浸炭処理の高精度化のために、同社は業界に先駆け真空炉を導入、経済産業省のサポイン事業(※1)で独自の熱処理技術を確立しました。
一般的に浸炭処理に多く使われるガス炉とは異なり、真空状態の炉内で処理することによって酸素に触れることなく浸炭処理が可能になります。
またCO2の発生が少なく、環境保全にも配慮した技術となっています。
今回、以前から交流のあった滋賀県東北部工業技術センターと、真空炉技術を応用して、炉内の水素を減少させる浸炭処理を開発しました。
真空浸炭炉による水素侵入の抑制技術を共同開発
熱処理加工により高強度化された金属製品であっても製造過程や使用中に侵入した水素によって、突然破断する現象が発生します。
これは、一般的に「脆化(ぜいか)(※2)」と言われる現象で、大きく3つのメカニズムが提唱されています。
同社はその中でも「浸炭処理の過程で被処理品に侵入した水素が、焼入れ変態時の空孔性欠陥(※3)形成に影響を及ぼすのではないか」と考え、開発を進めました。
その結果、浸炭焼入れ過程で水素が金属内に多量に侵入した場合は「大きな空孔性欠陥」が多く形成され、逆にほとんど水素が侵入しない場合には「非常に小さな空孔性欠陥」の形成が主となることを確認しました。
このことから、大きな空孔性欠陥が形成されると金属部材の使用中に力がかかることで、これらの欠陥の結合・拡大が起きて破断に至ると考えました。
同社は浸炭焼入れ工程における水素の侵入を抑えることで、強度と靭性の両方を兼ね備え、脆化を回避する熱処理を真空浸炭炉により実現したいと考えました。
浸炭処理工程の炉内水素量最適化を追求し水素侵入抑制処理を開発
より強固かつ破断しにくくなる熱処理加工を目指して、浸炭処理工程ごとの拡散性水素量、空孔性欠陥測定や破断面観察等のデータから、鋼材表面に適切な量の炭素を供給すると同時に水素侵入を最小化する条件及び方法を検討しました。
この結果、浸炭工程から焼入れ冷却工程における水素含有量の変化に脆化防止の鍵があることを突き止め、加熱浸炭処理時の水素侵入を防ぐ処理方法を確立しました。
この方法により、疲労寿命を従来法の2倍程度に延長。また従来と同程度の強度と靭性を、製品を小型化しても維持できることが確認され、コストダウンや環境負荷軽減も期待できます。
新しい技術のヒントは未解明な熱処理にある
同社は、自社技術を他社の課題解決に役立て、業界全体の技術力向上に貢献したいとの思いから、コンサルティング等にも対応しています。
更に、蓄積された素材の知識及び熱処理技術から、他社と連携し、炭素分野等金属以外の素材への展開を検討し始めています。
「水素抑制浸炭焼入技術」は、熱処理技術に存在する判然としないメカニズムの解明から誕生しました。
同社は、熱処理加工のメカニズムの謎の解明から、金属という分野を超えた技術の開発を推進していきます。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
2023年11月に発表された「KIZASHI vol.23『公設試との連携のもと躍進する企業』編」では、公設試の活用をきっかけに躍進している、食品加工や医療機器、金属加工など幅広い業種の中小企業等11社を特集しています。
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https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei23.html
公設試のすすめ2023
近畿経済産業局では、当局管内に立地する工業系の公設試の紹介冊子「公設試のすすめ」を作成し、各公設試に設置してある多様な機器の説明、依頼試験や技術指導などの支援メニューの利用方法をわかりやすく紹介しております。
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