未来に響く音と人材~変わらない技術力を活かして、10年先につながる取組を~ - 株式会社ノボル電機 -(シリーズ:オープンファクトリー #5)
関西各地でオープンファクトリーを実施している企業様へのインタビューを通じ、どんな想いを込め取組を始めたのか、取組により企業や社員にどのような変化があったのか、オープンファクトリーの魅力を紹介するシリーズ:オープンファクトリー(バックナンバーはこちら↓)
第5回は、株式会社ノボル電機さんをご紹介します。
音で紡いだ歴史と新たなチャレンジ
大阪府枚方市に拠点を置く株式会社ノボル電機。
1950年にラジオ修理業として創業以来、電子機器組立、金属加工の技術、企画・設計力を強みに、拡声器一筋で多彩な音響装置を展開している同社。
特に過酷な環境下での長期使用が求められる船舶用汽笛の製造では、業界から高い評価を得ています。
大切なことを多くの人に伝え、知らせることをモットーに、近年はBtoC事業にもチャレンジしており、新ブランド「ノボル電機製作所」を立ち上げています。
新ブランドのコンセプトは「不器用なガジェット」。これまで培った技術により生み出される「懐かしい音」や逆に愛らしい「業務用の無骨さ」を活かした商品開発を行っています。
代表的な商品であるスマホ用無電源スピーカー「拡音器」は、ラッパ型のスピーカーに切り込みを入れ、スマートフォンを差し込むと音量が大きくなるというものです。
電源を必要としないのでキャンプやBBQでの使用はもちろん、毎日の掃除や調理中も使用できる商品となっており、船舶用スピーカーで培われた耐久性が活かされています。
実際に音を聞くとどこか無骨で懐かしい感じがします。
これは、自社に備える音響試験専用の無響室で何度も測定を繰り返し、ノスタルジックな音質を保ったまま遠くまで届く音圧を実現するというこだわりによるものです。
見た目のレトロ感、現代ではあまり耳にできなくなったラジオのような懐かしい音。新しさはないが無骨な魅力にフォーカスした「不器用」さが魅力です。
そんな新たな取り組みにも積極的な同社は、昨年度より枚方市の地域一体型オープンファクトリー「不器用FACTORY」に参加しています。
社長の猪奥さん、オープンファクトリーを担当された橋口さんに活動を通じて得た効果やその魅力を語ってもらいました。
地域で取り組むオープンファクトリー
枚方市には優れた加工・生産技術を持つものづくり企業が数多く存在します。
そのようなものづくり企業、大学の研究機関、自治体・商工会・金融機関が一体となってイノベーション創出を目指す「ひらかた地域産業クラスター研究会」が平成18年に設立され、同社も参加していました。
本研究会ではものづくり企業の魅力発信、特に未来の担い手となる子どもたちと企業の交流の場を持ちたいという想いから令和5年から「不器用FACTORY」を開催しています。
同社は以前から小学生の工場見学を受け入れており、オープンファクトリーの未来への効果を感じていたこと、大阪・関西万博に向けた地域一体での取り組みに貢献したいとの思いから参加を決めたそうです。
昨年11月と今年の2月に枚方のくずはモールにて開催された「不器用ファクトリーin ひらかた」。
同社は「紙コップを使ったスピーカーづくり」、「電子工作でのLEDランタンづくり」、「段ボール工作でのスマホ用無電源スピーカーづくり」など、来場者が楽しめる工夫を凝らしたワークショップを行いました。子供たちの楽しそうな表情が印象的です。
このワークショップは、開発部技術課の橋口さんをリーダーに3名の若手社員で企画運営をされています。
橋口さんは、「小学生を対象としているが、小学生にとっては少し難しい内容になっている」と話されました。
これは、『~“できない”を楽しむ~』という不器用FACTORYのテーマに沿って、少し難しいものづくりにチャレンジし、できた時の嬉しさ、ワクワクを感じてもらう狙いがあるそうです。
地域貢献と若手職員の活躍・成長の場に
「オープンファクトリーの効果として真っ先に言えるのは、社員の成長です」と社長の猪奥さん。
コロナウイルスの影響で拡声器の需要が減少していた背景もあり、若手の技術系の社員が製品の加工以外に携わる機会がほとんどなかったそうです。
そうした社員にも会社全体のことを考えて働いてほしいという想いから、不器用FACTORYの企画から運営までを若手社員に任せたそうです。
担当した橋口さんは、「社内の見せ方や営業の仕方を考えるきっかけになったり、普段何気なく行う作業に自信が持てるようになりました」と言います。
また猪奥さんは、「技術系の社員が会社を客観的に見て自社の良さを再認識したり、収支を考えて企画することで、会社に対するコストメリットを考えながら普段の業務に従事するという面で大きな効果がありました」と言います。
さらに、普段の業務以外の社員の向き不向きが分かったことも大きかったようです。
その他の効果として、「不器用FACTORYに参加したことで、地域密着の企業としての安心感を抱いていただいたのか、採用につながったり、商談につながることが増えました。さらに、同規模の他業種企業ともつながりができ、企業としての魅せ方や発想の転換のきっかけになるなど、刺激になりましたね。」と猪奥さんは語ります。
「オープンファクトリーに地域として取り組むことで枚方のものづくりを盛り上げたいです。まだまだ地域の取組としては駆け出しですが続けることが大切ですし、2025年大阪・関西万博もあるので、ゆくゆくは枚方だけでなく大阪・近畿として盛り上がっていきたいです。」と熱い想いを語ってくださいました。
10年先を見据え
不器用FACTORYの企画からマネジメントまで手がけた橋口さんは、「子どもたちに分かりやすく伝えるために自分の仕事を客観的に見直すことができました。子どもたちに自分のやっていることや企業のことが伝わった時は嬉しかったし、仕事に自信を持つことができました。」と話されました。
オープンファクトリーを「10年後を見据えた施策」と表現した社長の猪奥さん。
「すぐに売上に影響がある訳ではなく、即時的な効果はないですが、外に出なかった社員が外部との関わりをもつことで、自社に誇りをもち、積極的に会社を発信しようとする姿勢が企業としての大きな一歩に繋がると自信を持っています」と語ります。
オープンファクトリーへの想いを語る橋口さんを、猪奥さんが優しく見守る姿がとても印象的だったこのインタビュー。
オープンファクトリーが企業の未来を切り拓く大きな一歩になる、私たちもそう再認識した瞬間でした。
オープンファクトリーとは
オープンファクトリーとは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取組です。
取組を通じて新たな接点やコミュニケーションが生まれるだけでなく、社員の成長やモチベーションにもプラスの影響を与えるという点で、現在注目を浴びています。
近年では、企業単独の取組はもちろん、ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など産業が集積している地域を中心に、地域内の企業等が面として集まり、地域を一体的に見せていく「地域一体型オープンファクトリー」も全国で広がりを見せています。