社員の発想が紡ぐ「有田みかん」の無限の可能性(株式会社早和果樹園)
株式会社早和果樹園は有田みかんの生産・加工・販売を行う6次産業化(※)を大々的に進めている企業です。
1979年に7戸のみかん農家で構成された「早和共撰組合」を起源に、2000年に法人化し同社を設立しました。
みかんの力で世界と繋がる
早和果樹園は、「みかん」の力で産地と都市を繋ぎ、更には日本中、世界中へと繋がりの輪を広げていくという意志が込められた「にっぽんのおいしいみかんに会いましょう」という社是を掲げています。
この社是を基に、園地ごとのデータを把握しながら栽培管理を行うスマート農業(※)や、徹底した衛生管理などに取り組むことで、みかん一つ一つの価値を最大限に引き出し、品質の向上を追求しています。
国内では直営所での店舗販売に加え、サービスエリアでの販売やECサイトでの直販を中心に全国各地に販路を拡大しています。また、海外にも視野を広げ、20カ国以上に販売先を展開しています。
秋竹俊伸さんは専業みかん栽培10年間、総務人事10年間を経て2代目社長に就任されました。
元農家、「生産者」だからこその視点を大切にされている秋竹さんに話を伺いました。
みかん一つに最大限の付加価値を
和歌山県有田市は、①年間を通じた温暖な気候②夏場に雨が少ない③水はけの良い土地があるため、温州みかんを育てるには最高の条件を持った地域ですが、自然に左右されるため、収穫量には限りがあります。
その上、一個のみかんから搾れる果汁は体積の60%になり、残りの40%は皮と薄皮で、廃棄するにも多額のコストがかかります。
2014年、本社近くに搾汁工場を建設し自社搾汁を開始しましたが、残渣(ざんさ:廃棄物)が大量に発生し、「この大量に発生する残渣を有効活用できないか」と頭を悩ませていました。
そんな時、以前から取引のあった大手漢方メーカーがみかんの外皮を乾燥させた「陳皮(ちんぴ:柑橘の果皮を原料とする生薬の一種)」を求めていることを知りました。
一般的な搾汁作業では「薄皮」が混在しますが、手作業で皮を剥く同社のみかんは「薄皮」が混在しないことから、見事に大手漢方メーカーのニーズと合致し、2015年より陳皮の生産を始めました。
その結果、廃棄していたみかんの40%のうち、30%が廃棄することなく新商品へと生まれ変わることができました。
更に全量活用を目指し、残りの10%を占める「薄皮(フクロ)」にも目を向けました。
フクロ部分の残渣はドロドロの状態で、余すことなく全てを活用することは困難な挑戦でしたが、プラスチック容器に入れて凍らせる工程を経ることで、スムージーとして加工することに成功し、「おふくろスムージー」という商品が誕生しました。
今では人気商品となっています。
このような取り組みを通じ、数々の新商品開発に成功しただけでなく、廃棄量の削減などのSDGs(※)への貢献にも繋がりました。
「みかん一個の価値」を上げることに真摯に向き合うことで、課題解決に結びついただけでなく、更なる成果を得ることができたのです。
こうした背景から、今では「捨てない加工」という言葉は同社のキャッチフレーズとなっています。
専業農家時代に傷みかんが安価で引き取られることが嫌だった秋竹さんは、周辺農家から傷みかんを高く買い取り、「陳皮」や「おふくろスムージー」という形で付加価値をつけて販売しています。これはまさに秋竹さんが農家(生産者)側の意識を持っていることの現れです。
「みかん一個の価値」を意識することで、捨てるはずだった40%部分に価値を生み出し、“どこよりも高く”加工用みかんを買い取っています。
結果として地域経済に刺激を与えることになり、地元への貢献だけでなく、みかん農家への還元にまでも繋がっています。
秋竹さんは、「有田みかん」を基盤として、今後も生産に関わる方々を含めた地域と共に成長していくことを目指します。
未来を見据えた企業の道筋「100億企業」「100年企業」
早和果樹園は様々な事業に取り組む際の行動指針として「100億企業」「100年企業」を目指すことを掲げています。
2017年、秋竹さんが社長に就任した際、挨拶のため和歌山県の仁坂知事(当時)を訪問しました。
その時に、「100億企業を目指しましょう」と言われたことが「100億企業」を意識するきっかけとなりました。
しかし、売上高100億円を達成することは決して簡単なことではありません。秋竹さんは自身が社長である間に叶うことではないと考えています。
いつか自身の後継者が叶えてくれることに期待し、長期的な戦略のもと達成することを見据えました。
そのためには「長く継続する会社」を築くことが必要だという考えから、「100年企業」も併せて掲げることにしました。
同社が持続的に成長していくための冠として「100億企業」「100年企業」を名付けたのです。
100億企業を達成するためには、まずは需要に対してしっかりと供給体制を構築し、新たなマーケットにも進出していくことが重要、と秋竹さんは考えました。
2021年以降、需要が供給を上回り、新規営業もかけづらい状況が続いていました。そこで、同社は積極的な設備投資に取り組んでいます。
今年度、ジュース自動充填ラインを新設し、自動化したことで、必要人員はほぼ変わらずに生産量を約2.5倍(180ml:1時間あたり3,600本)に伸ばすことができました。
これにより、現在供給が足りていない商品への対応や、新規営業にも踏み出すことが可能になります。
また、2025年3月頃には新たにカフェ併設の選果場・みかん直売所を新設予定です。
「100億企業」「100年企業」を叶えるためには、今後も企業として成長し続けることが鍵となります。
働きやすい職場づくりと強みを活かす人材育成
秋竹さんは、企業の成長を考える上では積極的な設備投資に加え、若い人を採用し続けることが重要だと考えています。
新卒社員が入社すると従来から働いている社員も刺激を受け、互いの成長が見られるようになったためです。
2014年から、新卒者を中心とした採用を本格化させていきました。
毎年3~6名程度の新卒採用を進め、現在では、同社の正社員のうち20代の若手が約4割を占めています。
有田市はこれまで話したようにみかんを栽培するには好条件の地域でありますが、雇用面では都市部に比べて、進学や就職をきっかけに都市部へ働き手が流出するなど、条件の悪い地域であると言えます。
そのため、いかに採用した新卒者に定着してもらうことができるかが鍵となります。
そこで、若者を定着させるために取り組んだことが「働きやすい職場づくり」です。最初に「心理的安全性」を保つことに取り組みました。
「心理的安全性」とは風通し良く意見を伝えることのできる関係性や、安全が担保される環境が構築されていることを言います。
そのために一つ目に取り組んだことは「声を荒げて怒る人」をなくすことでした。
怒鳴る管理職がいると、社員が自由な意見を出しづらくなり、職場全体の雰囲気も悪くなってしまいます。怒鳴る管理職を見つけるたびに、秋竹さん自ら声をかけて回ることでそのような社員をなくし、自由に意見を出しやすい環境を実現させました。
二つ目に、社員間の「顔の見える関係」を築くことに取り組みました。
普段の業務を進める中では、他の部署がどのような業務に取り組んでいるかや、どのような人が働いているかが見えづらい状況にありました。
秋竹さんは部門を越えた社員同士のコミュニケーションの場として、社員食堂を設置しました。
普段はあまり顔を合わせない他部署の社員同士のコミュニケーションが活性化するため、居心地の良い空気感が生まれます。部門を超えた社員同士の繋がりができることで軋轢が生まれにくくなり、「心理的安全性」にも繋がります。
更に他部署の仕事内容の見える化にも取り組みました。
全社員が投稿・閲覧が可能な日報アプリを導入し、全社員が毎日日報を作成しています。
全社員がお互いの日報を読み、感想を書くことができるため、部門を超えて日々現場で起きていることが把握できる上、社員の課題・要望の見える化にも役立っています。
その上で個人の強みを活かす人材育成に踏み込みました。
「将来の展望が見えない」という理由から辞めていく人が続いたことを背景に、「“強み”を伸ばす個別将来設計プラン」を構築しました。
具体的には、入社1年目はできるだけ本人の希望を汲んだ部署に配属してもらい、3年目までに幅広い業務に携わることができる機会を設け、自身の長所や適性を知ってもらうというプロセスを踏みます。
そして、3年目になった頃に秋竹さん自ら面談を行い、30歳になった際に求める人材像を話すことで先に将来の展望を見せるようにしました。
これまで得たスキルが発揮できる部署への異動を含めた、個人の強みを最大限に活かせるポジションに配属し成長させるという育成プランを導入したのです。
このように秋竹さんは、社員がコミュニケーションを円滑に行える場を用意すると同時に、各自の強みを伸ばしながら成長できる環境を整えました。
社員が自由な発想で挑戦できる風土づくり
秋竹さんは会社の成長には活発な20~30代の活躍が肝であると考えています。
20代後半では全ての仕事を一人でこなせるようになっていることが理想であり、「自走することができたら一人前」だと言います。
また、上司が部下を一方的に成長させるのは難しいという考えから、いかに自分の意思で伸びようとするかに重点を置いています。
そんな秋竹さんは、やる気のある人には挑戦の場を与えています。
例えば、会計の社外研修などであれば、希望する社員からの立候補をもって受理し、費用は会社で負担するといった流れです。
全員ではありませんが、積極的に社外に出ていく人材が増えだしています。
秋竹さんから「研修に行け」とは言いません。
「挑戦する場を設けるから、やる気のある人に成長してもらいたい」という秋竹さんの思いがあり、「出る杭はつまんで引っ張り上げる・出ない杭はじっと見ている」のが社長の仕事だと考えています。
日々の業務においても、社員からの新しい提案が多々あります。
本社直営所では期間限定でテイクアウトカフェを運営していますが、そこで販売を始めたみかんパフェも社員たちの発想から実現したものです。
みかんの生産にはどうしてもオフシーズンがあり、みかんの直売が叶うのは10月から2月の5ヶ月間です。
このオフシーズンを活かし、2025年3月頃にオープンする予定である新設工場には、社員の提案から一部パン工房も併設される予定です。
秋竹さんは「社員から新しい提案があった際には「なぜやるのか(Why)」を重要視している」と言います。
パン工房の提案があった際も、あくまで「みかん」が要であり、直売所は「みかん」を買って帰るところであり、みかんの売上を最大限にするための提案であることは忘れないで、と方針だけは伝えました。
その上で、オフシーズンをいかに活用するのか、社員自らが考えた提案が実現に至ったのです。
社員への自由な提案を促すと同時に、部門別に月次決算を出す「部門別経営」に取り組んでいます。
自部門の現状を把握することで仕事を「自分ごと化」し、社員に経営者意識を持ってもらう狙いがあります。
秋竹さんは決算の数字だけをチェックし、各部門に対して細かい意見を言わないようにしています。
このように社員自らが考え動き、挑戦する機会が普段から設けられています。
秋竹さんは「若い社員に挑戦させる風土をつくれば、その子たちが新しいことへ次々と進んでいく。若い力を巻き込んで有田を盛り上げることができれば、僕が生まれ育った地域への恩返しになる。」と考えています。
フレッシュな若手の活躍が、この先、有田のみかん産業を牽引して行くと考えているのです。
早和果樹園の、100億企業・100年企業を目標にした「おいしいみかんづくり」への挑戦は続きます。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
近畿経済産業局では、年間1,000件以上にも及ぶ企業・団体を訪問し、企業の変革のための挑戦を捉え、2025・2030年の先、将来を見据えた変化の「兆」として紹介するために、「KIZASHI [関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆(きざし)]」として、作成、公表しています。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html