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金属3Dプリンターで造形した精細かつ複雑構造の次世代ゴルフパターへの電着塗装(ハニー化成株式会社)

兵庫県のハニー化成株式会社は、金属、プラスチック、ガラスなどの様々な素材を「美しくみせる」、「長持ちさせる」、「傷や汚れが付きにくくする」など、その素材に付加価値をつけるための表面処理材の開発を行い、優れた塗装技術により世界で初めて絶縁素材のアルマイトへの電着塗装を実現した企業です。

そのような同社が参画する「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」の活動から生まれた、金属3Dプリンター製の次世代ゴルフパターへの表面処理を託された、同社のチャレンジをご紹介します。

ハニー化成株式会社
設立   1952年
資本金  1億円
従業員数 50名
業種   塗料、金属表面処理剤の製造・販売
所在地  神戸市長田区日吉町3-1-33
#表面処理技術 #金属3Dプリンター #兵庫県立工業技術センター #公設試との連携のもと躍進する企業


「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」から誕生した次世代ゴルフパター 

「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」は、兵庫県内企業における金属3D積層造形の技術力向上と技術の普及を目的に、兵庫県の金属材料、加工、分析業を中心に125の企業や団体等が参画する産官学の連携体です。

その活動拠点となる「金属新素材研究センター」は、2019年に兵庫県立工業技術センターが兵庫県立大学姫路工学キャンパス内に開設しました。この施設では、電子ビーム型及びレーザービーム型2種類の金属用3Dプリンターをはじめ、金属3D積層造形に関連する一連の装置を備え、様々な試作開発や素材の研究開発、技術者育成のための事業などが行われています。

試作開発の一例として、本コンソーシアムから誕生した次世代ゴルフパターがあります。次世代ゴルフパターは、金属新素材研究センターの金属3Dプリンターを活用して、金属粉末から作製されたものです。

複雑な空洞を持つラティス構造を採用することで、強さと軽さを兼ね備えつつ、優れたコントロール性とプレイヤー好みの打感に、オーダーメイドで対応できます。この優れた特性から、プロ向けの最高級価格帯のゴルフアイテムに相当することが想定されています。

さらに、次世代ゴルフパターとして付加価値を上げるためには、金属3Dプリンターで作製されたゴルフパターに合う表面処理技術が必要となります。この表面処理を担当したのが、コンソーシアムのメンバーであるハニー化成株式会社です。

金属3Dプリンターの造形物への表面処理に挑戦

パターの構造が複雑であれば、その表面処理も自ずと高い技術力が求められます。同社は複雑な形状でも均一かつ高い密着性を発揮し、耐食性に優れる電着塗装(下図参照)を施しました。

電着塗装とは

塗料槽に電気を流して塗料の粒子を装着する電着塗装は、耐食性のほか、塗料の使用量の削減や作業効率面にも優れています。同社は、電気絶縁素材のアルマイトへの電着塗装を世界で初めて実現したという実績を持ち、また、自社の塗料は水溶性樹脂を使用し、環境に配慮するなどの技術力が大手企業等から評価され、住宅用アルミサッシやビルの建材、半導体など、多様な用途の様々な素材の表面処理に採用されています。今回の金属3Dプリンターの造形への塗装処理の挑戦は、同社にとって高い技術力を発揮する絶好の機会でした。

腐食スピードとの戦いを克服、電着塗装技術を磨き上げる

ゴルフパターの好打感を実現するには、S20Cと呼ばれる材料が最適でしたが、この材料は非常に腐食しやすいものでした。また、金属の塊から鍛造によって作製する従来の製法と、金属粉末を材料とする金属3Dプリンターでは造形後の材料組織も異なってきます。このようなことから、金属3Dプリンターで造形したパターは、塗装の過程で必要となる前処理液から引き上げた瞬間から腐食が始まっていくことが分かり、前処理方法に再検討を要することとなりました。

この課題解決に向け、金属新素材研究センターからの分析結果等の様々なデータの提供やアドバイス等を踏まえ、詳細な素材構造等の把握とその対処法について試行錯誤を重ねていきました。その結果、検討開始から約1年後には前処理技術を確立することができました。

また、塗装面に関しては、同社のコア技術である電着塗装が要求通りの効果を発揮することが実証され、自社技術への自信は一層高まり、自動車部品への進出等、今後の事業展開における大きな収穫となりました。 

今回開発したゴルフパターヘッド

地域企業を巻き込みイノベーションの創出を目指す

本コンソーシアムで知恵と技術力を出し合って取り組んだ次世代ゴルフパター開発の経験は、自社の技術レベルを再認識するとともに、新たな可能性に気づきをもたらす貴重な機会となりました。そして、この経験は同社の研究開発の新たな可能性を示唆するものにもなりました。

創業者は、同社設立から23年後の1975年、最先端の科学技術を吸収し国際的視野を広げることを目的に、公益財団法人吉田科学技術財団基金を設立し、国立研究機関や大学等の研究者を対象とした助成事業等を実施しています。
そして、設立70周年の2022年には、明石事業所に新設した研究棟内にコンソーシアムの活動や大学等との連携活動が行える場として「オープンラボ」を設置しました。地域企業等との共創で地域の課題解決と技術力向上を志す同社の存在感はさらに高まっています。

公設試担当者のコメント
「ひょうごメタルコンソーシアム」の目的の、金属3D積層造形の技術力の向上及び普及を目指し、「金属新素材研究センター」のコーディネータとの連携により、コンソーシアムのメンバーが金属3D積層造形技術に接する機会を創出しています。
また、技術開発において生じる様々な課題の解決において、当センター職員及びコーディネータが有する知見やネットワークをフル活用してサポートし、利用者が金属3D積層造形への知見が高まるように心がけています。
(兵庫県立工業技術センター)


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。

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