見出し画像

世界に先駆けグラフェンの実用化に成功(株式会社インキュベーション・アライアンス)

炭素原子がハニカム構造で結合していることから非常に安定した結晶構造のカーボンナノチューブと同様の構造を持つシート状の物質である「グラフェン」。今回は、グラフェンの実用化を成功させた株式会社インキュベーション・アライアンスの代表取締役の村松さんに、そのの経緯を伺いました。


株式会社インキュベーション・アライアンス
設立 2020年
資本金 5000万円
従業員数 25名
業種 炭素材料事業
所在地 神戸市兵庫区和田山通1丁目2-25​神戸市ものづくり工場 D棟307号
#グラフェン #兵庫県立工業技術センター #公設試との連携のもと躍進する企業


新しい炭素素材「グラフェン」の実用化を目指す研究開発型ベンチャー企業

炭素は、結合の状態によって結晶構造が異なり、ダイヤモンドやカーボンナノチューブのように、その結晶構造に応じて様々な性質を示すことから、用途の広い素材として知られています。

2010年にノーベル物理学賞を受賞し、研究テーマで取り上げられたグラフェンもその1つです。グラフェンは、炭素原子がハニカム構造で結合していることから非常に安定した結晶構造を持つカーボンナノチューブと同様の構造を持つシート状の物質で、シートの積層間の結合力は低いですが、横方向の引っ張りに対する強度が特長です。

また、その高い電気伝導性、熱伝導性から導電材料や放熱部材等、次世代の素材として世界で期待が高まっています。

株式会社インキュベーション・アライアンスは、2007年に代表取締役の村松さんが、大学時代から携わっていたグラフェンの研究を自らの手で実用化するため、大手鉄鋼メーカーで携わっていた炭素材料の開発プロジェクト終了に伴い、退職後設立した研究開発型スタートアップ企業です。

世界初の多層グラフェンの無基板、無触媒の直接合成に成功

グラフェンは、触媒を用いて炭素を含むガスを化学反応させるCVD法で製造するのが一般的ですが、同社は独自の製造方法により、積層数が数層の多層グラフェンを無基板、無触媒で直接合成することに世界で初めて成功しました。

高純度のグラフェンの大量合成が可能となったことで、これまで課題とされていた生産性及び製造コストを大幅に改善し、実用化へ大きく前進しました。更に、グラフェンの分散液の製品化や、困難と言われていたシート状やインゴット(直方体の立体加工)の形状の製造技術の確立にも成功しました。

村松さんは、大手企業での研究経験から分析等の機器の使用に手慣れており、創業当初から気軽かつ積極的に兵庫県立工業技術センターの分析機器等を使用しました。

機器等の利用を重ねるうちに、当時の機器管理担当者と現在に至る長年の交流が始まり、新たな視点の助言等を通じて信頼が構築され、担当者から共同研究を行う、良き相談相手へと両者の関係は変化しました。

共同研究等で実績を積み重ねる

同社はグラフェンの実用化に向けて共同研究に積極的に取り組ん​でいます。

米国の大手IT企業との放熱部材の開発のほか、同センターとは同社が設計製作したグラフェンを均一に塗布する装置を使用し、グラフェンを高い充填率かつ高い生産性でコーティングした、軽量で高強度のグラフェンシートを共同開発しました。​

直近では、日本原子力研究開発機構、理化学研究所、兵庫県立工業技術センター、大阪科学技術センターとの共同で、世界で初のグラフェン中性子高強度材の開発を進めるなど、30社以上の企業との協業を進めています。​

グラフェンフラワーSP (グラフェンフラワーBLを任意の厚さ(0.3㎜~100㎜)で切り出したヒートスプレッダー)

攻めの経営でグラフェン事業の加速化へ

グラフェンを実用化したいとの強い思いを持って創業した村松さんは、研究開発型スタートアップの課題となりがちであるリソースの確保について、研究開発費は戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)(※)などの国の補助金を獲得、必要機器は前職の伝手で譲り受けるなど、積極的な姿勢で乗り越えました。

(※)サポイン事業
中小企業が大学・公設試等の研究機関等と連携して行う研究開発、試作品開発及び販路開拓への取組を支援する事業。
令和4年度より、「Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)」に統合

https://www.chusho.meti.go.jp/sapoin/index.php/about/

同社は海外展開にも力を入れており、前述の米国の大手IT企業との放熱部材開発については、日本では革新的な技術や製品の採用に難色を示される傾向にあるため、受容度の高い米国に乗り込んだという背景があります。

世界の市場獲得を視野に、製品や研究成果のPRを目的とした国内外の展示会への出展や、新しい技術の種や共同研究先の発掘のために学会へも積極的に出席しております。

これらの取組が奏功し、研究成果及びその将来性が高く評価され、企業や金融機関、株式会社産業技術革新機構(現株式会社INCJ)等からの出資を次々に獲得し、2023年4月には株式会社ADEKA(東京都、資本金230億円)からの出資を取得しました。

同社は更に整った経営環境の下、技術開発及び用途開拓に邁進し、グラフェン事業化を更に加速させていくことでしょう。

公設試担当者のコメント
同社が初めて当センターをご利用いただいて以来、交流を続けさせていただいています。
機器のご利用目的が革新的な技術開発で、機器の扱いにも慣れておられるため、ご利用当初は機器の使用方法のご説明程度でした。
しかし、ご利用回数が増えるにつれ、機器の利用目的や観察や確認の意図やポイントなどが理解できるようになり、機器のご利用の際には新たな視点での観察や確認方法のご提案のほか、同社との共同研究にも参画しています。
(兵庫県立工業技術センター)


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。

2023年11月に発表された「KIZASHI vol.23『公設試との連携のもと躍進する企業』編」では、公設試の活用をきっかけに躍進している、食品加工や医療機器、金属加工など幅広い業種の中小企業等11社を特集しています。

事業環境の変化を捉え、多様な課題解決や新規事業の開拓に挑戦する11社の熱い想いと、またその想いを受け止め、悩みの本質を引き出して一緒に考え、実現に向けてサポートする公設試の姿を感じていただき、公設試をよく知らない、もしくは、敷居が高いと感じて利用を躊躇されている方に、ご覧いただければ幸いです。

https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei23.html

公設試のすすめ2023

近畿経済産業局では、当局管内に立地する工業系の公設試の紹介冊子「公設試のすすめ」を作成し、各公設試に設置してある多様な機器の説明、依頼試験や技術指導などの支援メニューの利用方法をわかりやすく紹介しております。

また、先端技術の活用を期待できる、産業技術総合研究所関西センターの紹介もございます。本ガイドブックを御覧いただきまして、一番近くで頼れる技術相談窓口「公設試」を積極的に気軽にご活用ください。