独自の光学設計とナノ加工技術の活用により実現した空中映像表示素子の開発(株式会社パリティ・イノベーションズ)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により「非接触」という言葉がよく聞かれるようになりました。様々なスイッチなど「接触」を基準に考えられていた社会のシステムを、まるでSF映画やアニメのような「空中映像」という次世代映像技術の実現により変えようとする企業が東大阪にありました。
そんなワクワクする未来に向けた挑戦で栄えある「第9回日本ものづくり大賞優秀賞」を受賞されたのが、株式会社パリティ・イノベーションズの前川さん、前田さん、Foucherさん、直木さん、田中さん、亀島さんの6名です。
非接触を実現する浮かぶ「空中映像」
新型コロナウイルス感染症拡大で「非接触」が叫ばれるようになりました。エレベーター、券売機、ATM、トイレ、自動販売機など生活のインフラのほぼすべてに「スイッチ」が当たり前になっている私たちの暮らし。不特定多数が触れるスイッチに接触しないということは難しいのが現状です。
当たり前だったことが課題となる中、空中映像表示素子「パリティミラー®」で宙に浮く映像「空中映像」を実現することによってその課題を解決したのが、株式会社パリティ・イノベーションズです。
この取組は、同社代表の前川さんが国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)で職務発明で開発した技術が出発点です。
「映画に出てくるような、何もない空中にふわっと浮かび上がる映像表示を実現したい」という考えから、全く新しい光学システムの開発に着手することを決め、およそ1年の試行錯誤の末に基礎理論の発明と原理確認に成功しました。
発明した試作装置を国内外の展示会に出展すると、「是非とも社会に普及させて欲しい」という非常に大きな反響を得たことから事業化を決意し、2010年12月に満を持して株式会社パリティ・イノベーションズを設立しました。
魔法のデバイス「パリティミラー®」
これまでの立体映像と言えば、左右それぞれの眼で見るための映像を偏光(へんこう)眼鏡などを使って見せる「視差(しさ)方式」がよく知られていますが、パリティミラー®は全く異なる技術を用います。
高度な光学設計と光学シミュレーションにより、従来の光学系で達成できなかった「面対称等倍結像」を実現。
ミラーの表面に幅・高さが約300μmの2面コーナーリフレクタユニットを等間隔に配置、光線がユニットを透過する際に直角のコーナーに光を2回反射させ、光線を集めて空中に映像を映し出します。これは平面鏡と同じ鏡映像を結像させながら実像を空中に結像させ、目の前にある物体を見ていることと同じ原理で物体が見える。
まさに、ミラーを通すだけで映像がそのまま空中に浮かび上がる魔法のデバイスです。
このミラーにセンサーなどの技術を掛け合わせることで、空中に浮かび上がる映像を触れただけでデバイスの操作を可能にする非接触タッチパネルを実現できます。
また、最先端のナノ加工技術により、厚さ2㎜程度の非常に薄い板状の素子1枚に実現し、樹脂微細成形技術により量産化・低コスト化にも成功しました。
さらに特筆すべきは、ユーザー側の負担が少ない点です。
液晶ディスプレイやLEDなど、既存の光源をパリティミラー®の下に置くだけで映像が浮かび上がるため、導入コストもほとんどなくあらゆる場所に空中映像を生み出すことが可能となり、また、エンドユーザーにとっては、従来のような特殊なメガネやウェアラブルデバイス装着の煩わしさも全くない、これまでと違う大きな特徴を持っています。
SF映画の世界が現実へ
すでに国内外問わず多くのサンプル販売実績があり、高速道路パーキングエリア内トイレのリモコンや大学内の証明書発行機など様々な場面での採用、活用が広がっています。
また、パリティミラー®のサイズも380㎜×380㎜の発売が開始され、今後さらに大型サイズの開発にも期待が掛かっています。
近い将来、駅や公共施設などで空中に浮かび上がるデジタルサイネージを目にするなど、誰もが憧れたワクワクするSF映画の世界が実現する日もきっと近いはずです。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
2023年4月に発表された「KIZASHI vol.22『第9回 ものづくり日本大賞編』」では、2023年1月に決定した第9回ものづくり日本大賞受賞者のうち、近畿ブロックから受賞した10案件の取組をご紹介しています。
今回の受賞者の皆様も、それぞれの技術力を存分に活かしながら、その新規性と革新性、豊かな発想力によって、「ものづくり」を通じた様々な社会課題の解決に貢献されている、そんな姿を特集しました。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei22.html