老舗同士の共同開発から誕生した新感覚の蜂蜜酒(2/2)(奈良豊澤酒造株式会社)
奈良豊澤酒造株式会社は、日本酒発祥の地と言われる奈良で1868年の創業以来、ほとんど機械化せず手造りにこだわった酒造りに徹している老舗の蔵元です。
2023年5月の全国新酒鑑評会で金賞を受賞した、同社を代表する「大吟醸 豊祝」をはじめとして、同社の商品は多くの日本酒ファンから支持されています。
近隣の老舗企業からの声がけで始まった蜂蜜酒の開発
同社は奈良県内の蔵元27社が加入する奈良県酒造組合に所属していて、奈良県産業総合振興センター(以下、同センター)とは、清酒の品質関係の試験や日本酒研究会、同センターの発酵に関する研究開発における連携実績等、長年にわたる交流がありました。
しかし、同センターの蜂蜜酒に関する研究開発報告書の存在は、やまと蜂蜜株式会社からの企画提案で初めて知りました。
やまと蜂蜜株式会社については「近隣にある養蜂業の老舗」くらいしか知りませんでしたが、蒸留酒や醸造酒に果実などで風味付けをするリキュールとは異なる、清酒酵母による発酵に日本酒の新たな可能性を感じて参画を決めました。
このようにして、3者の共同研究による新しい蜂蜜酒の開発がスタートしました。
蜂蜜酒の共同開発について、やまと蜂蜜株式会社の記事はこちら
清酒酵母による発酵力低下などの課題を克服
清酒は蒸した米に清酒酵母と米麹を添加して製造しますが、同センターが研究開発した蜂蜜酒は蜂蜜に酵母と米麹を添加するため、香味に課題がありました。
香味の改善のため、酵母を清酒酵母に、蜂蜜を国産蜂蜜に変更したところ、清酒酵母は蜂蜜に対して発酵力が弱く、また、醸造のロットを研究ベースから商品化ベースに増量した場合も研究成果と同等の仕上がりになりませんでした。
これらの課題解決のため同センターと一緒に、清酒酵母の発酵力を補助する米麹とのバランスや原料の使用量及び、発酵条件の試行錯誤が続きました。
また、日本酒の醸造の過程で濁りの除去や品質の保持を目的に澱(おり)を取り除きますが、蜂蜜酒の場合は澱を取り除く新たな手法の確立が必要でした。
更に、蜂蜜らしい色や香味の官能検査(※)や、保存状況による品質保持の検査、同社のアンテナショップの機能を持つ直営の飲食店舗での試飲等、度重なる試行を経て新感覚の蜂蜜酒が完成しました。
地域資源との掛け合わせで奈良の蔵元としての企業価値を高めていく
接点がなかった地元の異業種企業であるやまと蜂蜜株式会社との共同開発を通じた交流は、同社にとって大きな刺激となりました。
日本酒の新たな可能性の気づきや次の展開へのヒントを得て、様々なアイデアが湧き上がり、小ロットの醸造が可能な設備の導入等、新商品の開発の検討を開始しています。
また、今回の蜂蜜との出会いは地域資源の魅力を改めて認識するきっかけともなりました。
同社周辺には奈良市内の古い田園風景が残っていて、様々な農作物が栽培されています。同社は地元の新鮮な農作物に地域資源のポテンシャルを見出し、直営の飲食店舗で同社の清酒にマッチする料理の食材に使用して好評を得ています。
同社は、新たな挑戦を通して日本酒の醸造技術を磨き、地域資源との掛け合わせによって、地域ならでは新しい日本酒文化の創造と発信への挑戦を続けます。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
2023年11月に発表された「KIZASHI vol.23『公設試との連携のもと躍進する企業』編」では、公設試の活用をきっかけに躍進している、食品加工や医療機器、金属加工など幅広い業種の中小企業等11社を特集しています。
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公設試のすすめ2023
近畿経済産業局では、当局管内に立地する工業系の公設試の紹介冊子「公設試のすすめ」を作成し、各公設試に設置してある多様な機器の説明、依頼試験や技術指導などの支援メニューの利用方法をわかりやすく紹介しております。
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