「I will」の精神で喜びや感動を提供し続ける(岩崎工業株式会社)
奈良県に本社を構える岩崎工業株式会社は、普段の生活の中で使っているランチボックスや食品保存容器、冷水筒、ゴミ箱などのプラスチック家庭用品や医療器具を中心に開発・製造・販売を行っている企業です。
今回は、技術力と感動をもって世界のトップランナーを目指す社長の岩崎さんに熱い想いをお聞きしました。
セルロイド加工からスタート
岩崎工業株式会社は、プラスチック家庭日用品雑貨、医療器具等の開発・製造・販売を主軸に、家庭日用品雑貨は「Lustroware(ラストロウェア)」、医療機器は「Lustromedic(ラストロメディック)」というブランド名で事業を展開しています。
昭和9年(1934年)に大阪市内で、現社長の岩崎さんの祖父が事業を始められました。
創業当時はブローチや櫛、鏡の持ち手や外枠といったセルロイド系の部材製造や研磨加工を行っていました。創業時から消費者向け商品を手掛け「下請けにはならない」というポリシーを持ち、これが現在でも同社の経営姿勢の基盤となっています。
その後、大手電機メーカー等のプレミアム商品の販促品も手がけ、事業が拡大していきました。
「Lustroware」と「Lustromedic」
1964年の東京オリンピックで西洋文化が一気に流入してきた頃に、アメリカの「Lustroware(ラストロウェア)」ブランドのライセンス提供を受けたことが、商品のブランド化、消費者の満足度向上にも貢献し、高度成長期の勢いの中で流通・小売業の拡大とともに、同社も大きく成長しました。(「Lustroware」ブランドライセンスは現在同社が買い取って保有)
同社のプラスチック家庭用品である「Lustoroware(ラストロウェア)」ブランドは、食品保存容器や冷水筒、ランチボックスが主力商品となっており、その特徴は消費者が「より使いやすい」工夫がなされているというところです。
例えば、食品保存容器のフタのゴムパッキンをプラスチック部分であるフタと一体成形することで、ゴムパッキンを取り外して洗う手間をなくすことができ、且つ衛生的であることから、消費者から高い評価を得ています。
また、冷水筒は洗浄時に手首まで入る大きな口径で横置き可能と、様々な工夫が凝らされています。
同社の強みである商品開発は素材開発から徹底しており、アメリカのバイヤーから「食器洗い乾燥機で使っても縮まない保存容器は作れないか?」との相談を受け、開発に4年を要しましたが、「THE MICRO CLEAR/スーパークリアーコンテナー」を開発しました。
この商品は、環境ホルモンを含まない安心・安全な先進的なプラスチックを使用しており、また、容器も入れ子にでき収納にも困らないといった機能性やデザイン性が評価され、2011年には家庭用品容器としては初となるグッドデザイン賞を受賞し、同社の売れ筋商品となっています。
さらに、医療関連商品の「Lustromedic(ラストロメディック)」ブランドでは、医療従事者からの意見や要望を基に開発した、人にやさしい医療器具として舌圧子(ぜつあつし)(※)を医療業界へ提供しています。これは、硬度の異なるふたつの樹脂を一体成形し、舌に当たる部分は柔らかい樹脂を使用することにより、舌への圧迫感が少なく嘔吐反応が起こりにくい医療器具となっています。
無から有を創り出す会社
このように先進的な商品を創り出す秘訣を、岩崎さんは笑顔でこう語ります。
「我が社は『ないものねだり』をしている会社なんですよ。『無から有を創り出す』会社と言ってもいい。ビジネスモデルとして、“なにを作るか” “どう作るか” “どのように売るか”が重要なポイントです。」
同社が大切にしている姿勢は、消費者がいま使っている商品の課題(顕在的な課題)を解消する商品、そして、いまは世の中に存在していないが、消費者の潜在的な願望を満たし、これから必要とされる商品を創り出すこと。バイヤーからの要請に応え消費者の課題を解決できることが同社の強みとなっています。
そしてこの強みを支えるのは、開発力・技術力です。
革新的な商品を創り出す開発力・技術力
顧客や消費者の課題を解決する新しい商品を創り出すために、プラスチック素材の開発から手がけています。
柔らかいプラスチック、いわゆるサーモ・プラスチック素材の開発に注力し、固い樹脂から柔らかい樹脂へと素材の転換を進めており、プラスチック素材の優位性・機能性を活かした商品開発を得意としています。そして開発と技術の部門それぞれに品質管理担当を配置し、総合的に開発に取り組んでいます。
また医療器具製造においては、医療機器の品質マネジメントシステムの規格であるISO13485の取得により品質管理の信頼度が向上し、医療機関や大手医療機器メーカーとの取引も増えています。現在は、舌圧子に続いて、外科用検診器具と動物用の針無し注射器等を開発中です。
マーケティング力
同社の革新的な商品を「どのように売るか」も重要です。
商品販売は国内にとどまらず、海外へも積極的に展開しています。アメリカのシカゴではハウスウェアショーに2005年から継続して出展することで、キッチン・収納・整理用品を扱うアメリカの小売チェーン企業「The Container Store(ザ・コンテナ・ストア)」との取引が始まっています。
また、出展を継続している中で世界中のバイヤーとのつながりも生まれ、現在ではスウェーデンやイタリア、ドバイなど世界26カ国に輸出しており、なかでもAmazon USAやコストコ台湾を通じて、販売量も拡大しています。
商品パッケージ・売価帯(商品価値に見合った価格)・販路といった世界基準で戦うマーケティング力も同社の強みの一つです。
GXへの挑戦
順調に事業を拡大している同社ですが、先を見据えた新たな展開にも注力しています。
それはGX(Green Transformation)への積極的な展開です。
現在のプラスチック材料の環境負荷を考え、環境にやさしくリサイクル可能な「未来のプラスチック素材」への挑戦として、3R(Reduce, Reuse, Recycle)に加えて、プラスチック資源循環への関心が高まり、注目を集める4番目のRである「Renewable」(再生可能)に着目し、素材開発を行っています。
例えば、さとうきび由来のバイオポリエチレンや不織布再生PP(ポリプロピレン)、竹由来の素材といった「未来のプラスチック」を原料とした商品を市場に展開しつつあります。
同社は、さとうきび由来のバイオポリエチレンやポリ乳酸を使った商品の開発では、2025年の大阪・関西万博で、でんぷん由来のバイオプラスチックに素材転換した動物用無針注射器を披露すべく、精力的に開発を進めています。
社長の想い
このように革新的な商品を創り出し、先を見据えた挑戦を行う源泉は、社是と経営理念にみることができます。
同社の社是は「I will」。
岩崎工業の頭文字「I」、私(一人称)の「I」、そしてインターナショナルの「I」の3つのIを表しています。
強い意志を持って「『私が』よろこんでやります」という主体性・積極性の意味も込められています。
実はこの社是は、会社の方向性を話し合う社員合宿のなかで、社員からの意見を反映して決めたもので、全社一丸となって大切にしている方針・考え方です。
また、時代の変化にあわせた経営理念も、12名の部門長を巻き込んで策定しました。
「自分自身の成長の実現・輝く未来の構築」「良好な信頼関係の実現」「積極的なチャレンジ精神と相互尊敬」そして「世界のトップランナーを自覚し、喜びや感動を提供する」という4項目です。
「情熱と感動をもってグローバルに展開します。相手が驚くような商品でなければいけないんですよ。」と語る岩崎社長。
顧客のニーズに応えるため、新たなプラスチック素材や世界標準での商品開発、革新的な商品を創り出す技術力、そして世界に商品を届けるマーケティングを駆使しながら、情熱と感動を持ってグローバルに展開する会社、それが岩崎工業株式会社です。
「世界のトップランナーとして走り続ける」岩崎工業の新たな挑戦から目が離せません。これからも消費者に喜びや感動を提供し続けることを期待しています。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html
地域未来牽引企業
地域内外の取引実態や雇用・売上高を勘案し、地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれるとともに、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手、および担い手候補である企業を、経済産業省では「地域未来牽引企業」として選定しています。
https://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/chiiki_kenin_kigyou/index.html