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オープンファクトリーで広がるフライパンと可能性のものがたり~ - 藤田金属株式会社 -(シリーズ:オープンファクトリー #1)

突然ですが「オープンファクトリー」をご存じでしょうか?

オープンファクトリーとは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取組です。

取組を通じて新たな接点やコミュニケーションが生まれるだけでなく、社員の成長やモチベーションにもプラスの影響を与えるという点で、現在注目を浴びています。

近年では、企業単独の取組はもちろん、ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など産業が集積している地域を中心に、地域内の企業等が面として集まり、地域を一体的に見せていく「地域一体型オープンファクトリー」も全国で広がりを見せています。

地域一体型オープンファクトリーとは(出典:近畿経済産業局)
OPEN FACTORY REPORT 2.0(出典:近畿経済産業局)
企業単体で取り組むオープンファクトリー集(出典:近畿経済産業局)

今回から9回にわたり、関西各地でオープンファクトリーを実施している企業様へのインタビューを通じ、どんな想いを込め取組を始めたのか、取組により企業や社員にどのような変化があったのか、オープンファクトリーの魅力を紹介いたします。

初回となる今回は、藤田金属株式会社さんをご紹介します。


価格競争からの脱却~フライパン物語~

関西最大級のオープンファクトリー「FactorISM」(ファクトリズム)が開催されている、ものづくりの町八尾。

そんな八尾市で、おしゃれなカフェに見間違えるような外観の工場を構え、数々のメディアに取り上げられ、大ヒットを記録している鉄フライパンを製造・販売している企業があります。

企業の名前は、藤田金属株式会社。今回は、同社社長の藤田盛一郎さんに話を伺いました。

インタビューに協力いただいた社長の藤田盛一郎さん

1951年創業でフライパンなどの金属製キッチン用品を主に製造・販売している藤田金属。

今では「フライパンジュウ」をはじめとする大ヒット商品を数多く生み出し、名だたる企業とのコラボ商品を多く展開していますが、4代目社長の盛一郎さんが入社した当時は、取引先からの値切りや新商品を出しても数ヶ月後には海外製の類似商品が安価で出されるなど、激しい価格競争にのまれて厳しい状況が続いていました。

この状況から脱却するべく、価格を守りながら販売していくためのオリジナリティを持った鉄フライパンを追求し、生まれたのが、素材から表面加工、持ち手のカラーまで個別オーダーで提供する同社オリジナルブランド「フライパン物語」です。

これまでOEMなどBtoBでのものづくりをしていた同社にとって、フライパンカスタマイズサービスであるフライパン物語は、BtoC市場への新たな道を切り拓く挑戦的な取組でした。

個別オーダーの対応に職人の手が回らないという課題もありましたが、法人向けの大口注文を増やすことでバランスを取り、順調に発展。

大阪ものづくり優良企業賞や大阪製ブランド認証の受賞・取得、東京のギフトショーへの出展など、同社の活躍の幅を広げ、大手企業からコラボ商品の開発依頼が舞い込み始めるなど、ブランド価値を高めながら価格を維持することに光明が差しました。

ブランドの確立~フライパンジュウの誕生~

そんなフライパン物語を追い風に、同社が次に着手したのがオリジナル商品の開発です。

東京のデザイン事務所TENTの力を借り、2年の歳月を経て誕生した製品が、「フライパンジュウ」です。

持ち手が外せてそのままお皿として使える鉄フライパンジュウは、独創性のあるデザインや機能性、大阪の町工場で作られているというストーリー性が評価され、世界三大デザイン賞と呼ばれるドイツのRed Dot Award 2021のほか、iF design award 2021、大阪製ブランド認証など、国内外の様々な賞を受賞する大ヒット商品となりました。

デザインのかっこよさはもちろん、片手で取っ手を取り外せる機能性も兼ねる

見せることで広がる可能性

様々なチャレンジを行い評価は得ていたものの、知名度にはまだ課題がありました、と藤田さんは言います。

そんな中、八尾市職員からの紹介で、新潟県の燕三条地域が先進的に取り組んでいるオープンファクトリーを知り、フライパン物語やフライパンジュウで町工場のストーリー性に可能性を感じていたことから、すぐに現地視察に行ったそうです。

そこで、ものづくりの背景を見せることの価値と必要性を確信し、同社でも実施することを決意した同社は、創業70周年のタイミングで、オープンファクトリーに対応するために工場を改装しました。

オープンファクトリー化にあたりオープンしたショップ
ショップからは工場の様子を俯瞰して見ることができる

オープンファクトリーを実施したことで、知名度の向上に留まらない、様々な効果があったと藤田さんは語ります。

①コラボ依頼の増加
工場を改装するまでは、取引先が来られるくらいでしたが、今では一般のお客様はもちろん、スポーツ用品大手など大企業の方も来られて、しかも先方からコラボを依頼されるようになりました。

コラボにあたり、同社であればできるだろうと、それまでになかった依頼を受けることもありますが、期待に応えようと試行錯誤することで、技術力の向上にもつながっているので、どのような話がきてもまずはやってみるの精神でやってますね。

②社員のモチベーションと提案力向上
オープンファクトリーに来られた方が実際に商品を買っていく姿をみることで、現場のモチベーションも上がり、社員から「ユニフォーム変更しましょう!」など提案も増えました。

次の展開として、社員提案型の商品を展開していきたいと思ってますし、ロイヤリティ契約を締結して売れれば売れるほど給料も上がる仕組みを構築していく予定です。

③人材採用の増加
メディア露出も増え、若い人材が来るようになりました。大手企業の内定を断ってでも、商品の格好良さと町工場ならではの経験を求めて来られて、同社初めての新卒採用につながっています。

オープンにすることによる真似をされるリスクについて問うと、問題ないですと藤田さん。

真似されることは良いこと。真似するということは、認めているという証拠で、自分の考えが合っていたという証明になる。」と言います。

また、オープンファクトリーを検討するまでは、地域の企業とのつながりが少なかったという同社ですが、地域コミュニティみせるばやおやFactorISMを通じて、地域の他企業とのつながりができ、そこから取引やコラボが生まれていると言います。

前述の工場の改装も、地域の企業である友安製作所が手掛けており、地域一体でコミュニティが形成され、地域一体で経済が活性化されていることも、オープンファクトリーを実施していることの成果であると言えるでしょう。

飽くなき挑戦心こそがブランディング

自社ブランドを確立させ、名だたる大企業と数多くのダブルネーム(※1)でのコラボを実現するなど、高いブランド力を誇る同社ですが、藤田さんは「ブランディングがすごいと言われることがありますが、特にブランディングをしてきたわけではないです。目の前にあることをやってきた結果、今の藤田金属があります。」と語ります。

誠実で、何でもやってみるという精神を持って挑戦し続ける同社は、これからも多くの人を魅了する商品を開発していくことでしょう。

※1 ダブルネーム
販売力を持つ大手企業とブランドを確立した中小企業がイコールパートナーとして取り組むコラボレーション事例。大手企業を中心とした販売力を持つ企業のブランド名称に、製造力に強みを持つ中小企業のブランド名称を併記することで、新たな商圏にリーチする動きが広がりつつある。

出典:近畿経済産業局「関西企業フロントラインNEXT Vol.17 ブランドを確立した中小企業が取り組む新たなコラボレーションの潮流」

#シリーズオープンファクトリー