多様な価値を届ける缶づくり~従業員の力を引き出し、アイデアを掛け合わせる生野金属の挑戦~(生野金属株式会社)
生野金属が提供する多様な缶製品とコロン缶
缶の中には、無限の可能性が詰まっています。
生野金属株式会社は、創業以来、一斗缶、菓子缶、塗料缶など幅広い缶製品を生産し、様々なニーズに応えてきました。デパ地下の有名スイーツや調味料の缶など、実は日本全国どのご家庭にも同社が作った缶が必ず1つはあると思います。
また、一目見ると手に取りたくなるコロン缶を「Caran Coron」ブランドで展開しています。コロン缶は、手の平サイズで、表面だけでなく缶の裏側にも様々なキャラクターやアーティストによるイラストが高精度に印刷されています。日常生活で使ってみたくなる“かわいい”デザインが特徴で、有名アーティストが使用したり、アニメとのコラボ商品もあるため、SNSでも話題沸騰中です。コロン缶は、「手の平から可能性が広がる缶を」という想いと共に開発され、ギターのピックを入れたり、アクセサリー入れとして使うなど、使う人のアイデア次第で使い方は無限大です。
新たな一歩とMVVの意義
生野金属社長の小西さんは、以前の自社を振り返り、このように語ります。
「当社は、従前どおりの缶製品を作り続けるだけでなく、新商品開発や新たな販路開拓にも取り組んでいました。しかし、社員は新たな製品が持つ価値を上手く顧客に伝えられず、モヤモヤしていたのではないでしょうか。」
小西さんがこう語るように、これまでに両面印刷の缶の製作や独自技術を活かした異業種とのコラボレーションなど、様々なチャレンジを行っていたものの、同社の方針や提供する価値が明確になっていなかったため、顧客にも製品の価値が届いていませんでした。このため、会社としての想いや価値をより明確に言語化していきたいと考え、近畿経済産業局の施策「デザイン経営導入支援事業」を活用し、デザイン経営(※1)を用いた取組を行うことにしました。
デザイン経営導入支援事業では、まずは社長自らが自身の経験を踏まえ、なぜ3代目社長として生野金属に戻ってこようと思ったのか、過去の経験や思いを振り返りながら、自社のアイデンティティや目指すビジョンなどを言語化し、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)(※2)の策定に取り組みました。
MVV策定に向けて、幾度と行うディスカッションを通じて、小西さんが無意識に多用している「横櫛を刺す」というキーワードが同社の重要な価値観となっていることや、新たに開発した商品を適切な顧客に届ける重要性などの気づきを得ました。
また、MVVの策定で難しいことは、過去の経営方針との整合性を保つことでした。後継ぎとして、会社の方針が大きく変わることは、取引先との関係変化などのリスクを伴ってしまうからです。
ディスカッションを通じて得た気づき、缶製造に縛られない事業ができるように「金属」という言葉を社名に取り込んだ経緯や、過去の経営方針と取組との整合性も踏まえ、同社が今後目指すべき姿や社員が共有する価値観を言語化し、次のようなMVVを策定しました。
策定したMVVの浸透に向けて、パートを含む全社員に何度も説明を行いました。また説明を行うだけでなく、このMVVに則り、新たなことにチャレンジすることや、自分達らしい事業の展開を目指し、新規のプロジェクト(01A PROJECT(※3))を立ち上げました。新たに開発したコロン缶も、当初は面白いモノができたものの用途が分からず、誰に届ければよいかも分かりませんでした。そこで、プロジェクトの一環として、ワタワンの店舗で様々な顧客に触っていただき、使い方のアイデアをもらったりしました。中には、思いもよらぬ使い方の報告もあり、自社だけでは思いつかない多様な用途を生み出すことができました。また、購入者から思いもよらぬ使い方も報告してもらうことで、自社だけでは思いつかない多様な用途を生み出すことができました。更に、「Caran Coron」というブランド名も、「01A PROJECT」に参画するメンバーから生み出されたものです。
これらの取組を通じて、MVVは徐々に社内に浸透し、社員一人ひとりが自分の役割を再認識するきっかけとなりました。
デザイン経営を通じた社内変革
デザイン経営の取組みを通じて、同社のアイデンティティや目指すビジョンなどを言語化したMVVを策定したことにより、社内に様々な効果がありました。その一端を紹介します。
1.モチベーションアップ
デザイン経営の導入により、最初に「01A PROJECT」が立ち上がり、開発メンバー以外にも、営業メンバーや総務、業務、更にはパートの方も参加し、多様な視点を持つプロジェクトチームが誕生しました。特に、パートの方がリーダー的な役割を果たし、現在では社員として活躍しています。
これにより、誰もが活躍・挑戦でき、個人のポテンシャルや能力を引き出す環境が整い、フラットな形での意見交換ができるようになりました。
2.提案力の向上
「01A PROJECT」をきっかけに、社員から様々な提案が出てくるようになりました。例えば、①夏場のユニフォーム変更、②安全靴の軽くて丈夫な製品への改良など数多くのアイデアが出てきています。
ワタワンでの出店が生む新たな働き方
生野金属では、大阪府岸和田市にある複合商業施設「WHATAWON」(以下、ワタワン)に発信拠点として「Caran Coron」の店舗をオープンし、数多くのコロン缶を販売しています。特に、土日には家族連れのお客様が多く訪れ、賑やかな雰囲気が広がっています。顧客からの新たなアイデアや要望をしっかりと受け止め、商品開発に反映しています。例えば、代表的な商品シリーズである犬のコロン缶は78種類も取り揃えており、愛犬家から大好評となっています。
また、季節やイベントに合わせた特別なコロン缶も販売しており、毎回新たな楽しみを提供しています。更に、SNSで新商品の情報を発信すると、取り置きのリクエストも増えるなど、リピーターも続々と増加中です。最近では百貨店の催事に招かれることも増えてきました。
このように、ワタワンの店舗を通じて様々なニーズをくみ取ることで、より手に取ってみたくなる製品を生み出すことに繋がっているほか、リピーターを始め多くの人が何度も立ち寄りたくなる拠点になっています。
ワタワンでの店舗出店により、社員の働き方にも新たな変化がありました。土日に働くことができる環境が整ったことで、休日に出勤をして平日休みを取る働き方が可能になりました。特に、親の介護などの理由から平日の休みを希望する社員にとって、この柔軟な働き方は大きなメリットとなっています。
また同社は、これまでも社員の高い定着率を誇っていますが、今後も更なる働きやすい環境を提供することで、定着率の向上を図っていきます。更に、採用活動においても、従来の求人広告に頼るのではなく、新たなアプローチとして、今後はワタワンの店舗内で事業紹介や求人募集の動画を流し、同社に興味を持ってくれた人に応募してもらう仕組みを考えています。
これにより、同社の取組や理念、働き方に共感してくれる人の採用に繋がることを期待しています。
挑戦を通じて新たな価値創出へ
生野金属では、これら 以外にも新たな商品群の開発を進め、新しい価値を持つ商品の提供に取り組んでいます。直近では、推し活などで盛り上がる缶バッチ市場の獲得に向けて挑戦し、更なる成長を目指しています。
同社は、ただの缶製造業者ではなく、社員一人ひとりが誇りを持ち、共に成長する企業です。これからも、革新と挑戦を続け、未来に向けて新たな価値を創造していくことでしょう。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
近畿経済産業局では、年間1,000件以上にも及ぶ企業・団体を訪問し、企業の変革のための挑戦を捉え、2025・2030年の先、将来を見据えた変化の「兆」として紹介するために、「KIZASHI [関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆(きざし)]」として、作成、公表しています。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html