誘電加熱技術で市場を熱くする~顧客の困りごとを装置で解決するソリューションカンパニー~(山本ビニター株式会社)
金属に代表される導電体以外の素材を内部から加熱でき、産業用の加熱プロセスの合理化・効率化や省エネルギー化など、無限の可能性を有する高周波やマイクロ波による誘電加熱。
創業以来その技術を磨き続け、誘電加熱装置メーカーとして様々な素材の加熱を実現してきたのが、大阪市天王寺区に本社がある山本ビニター株式会社です。
電波による誘電加熱装置は、例えると大きな電子レンジのようなもので、高周波やマイクロ波を発生させ、物質を内部から温めることができます。
山本ビニターの製造する装置は、木材の接着、テントやシート、フィルムの溶着、食品の解凍など幅広い分野に使用されています。
また、同社は世界で初めて高周波誘電加熱によって体内のがん細胞を加熱するハイパーサーミア(がん温熱治療)装置の開発に成功し、医療分野にも進出しています。
2023年に創業70周年を迎えた同社を訪れ、社長の山本泰司さんに同社の魅力や今後の事業戦略を伺ってきました。
オンリーワン企業への変貌
「創業者の父はカリスマ性のある商売人だった」と振り返る山本さんは4人兄弟の長男で、いわゆる2代目社長です。
子供のころから会社を継ぐことを意識しつつも、父からは「医者になれ」と言われてきたそうです。
大学卒業後はそれに反発して東京の総合商社へ就職しましたが、結婚を契機に大阪に戻って同社に入社し、2009年に社長に就任しました。
「経営より技術の方が面白かった」と語る山本さんは入社後に、技術屋だった当時専務の叔父さんに現場のイロハを教わってきました。
その思いからか「他社と同じ物を作って値段で競争するよりは、世の中に無い物、新しい物を作っていくほうが面白いし、気持ちが入る」と話します。
社長就任後、その思いを実現するかのごとく、社内の数ある事業を整理して誘電加熱装置への一本化を計り、現在ではその7割がオーダーメイドで、顧客の要望に合わせて異なる装置を開発しています。
「メーカーとしては同じ装置を大量に作れる方が良いと思うが、顧客が望むものを作れば少なくとも1台は買ってもらえる。」
同社は山本社長の就任後、顧客のニーズに応える技術力と対応力を磨き続け、誘電加熱分野でのオンリーワン企業として更なる成長を遂げてきました。
新たな顧客ニーズへのチャレンジ
高周波やマイクロ波による誘電加熱は、他の加熱処理方法と比較してエネルギー効率が高く、近年は、カーボンニュートラルやSDGsなどの環境配慮の流れにより、加熱処理工程の電化を検討している企業からの問い合わせが急増しているといいます。
山本ビニターのコーポレートサイトには「電波加熱研究所」と称する高周波誘電加熱技術とマイクロ波加熱技術について丁寧に開設するページを設けています。
問合せは、本サイトを経由してきたものが多く、国内のみならずアメリカの大手企業からも問合せがあるといいます。
「誘電加熱の技術情報に関しては世界で一番詳しく掲載していると思う」と自負する山本さんは、従来からお得意様としてきたフィルム、木材、食品業界以外に、化学や電池材料などの分野からも数多くの問合せを受け、様々な分野での誘電加熱の活用に期待を寄せています。
ただ、電波による誘電加熱は、対象物の性質や形、大きさに応じて適切な周波数や出力、加熱時間等が異なるため、これまでに経験のない素材には、今持っているノウハウだけでは対応できないことも多々あります。
山本さんはこうしたニーズに対応するため、2003年に技術開発課を、2015年4月には八尾工場に「商品開発センター」を設立しました。
技術開発課には製造から独立した専任の技術部隊を配置し、その技術者達は日夜、顧客が持ち込んでくる加熱対象物に最適な周波数帯や加工方法を探して、多くの試験機や測定器を用いた試験を行っています。
また営業部門や製造部門から独立している商品開発センターでは、独自の開発として、顧客が使いやすいように装置の自動化にも挑戦しています。
以前の装置では、最適な加工条件を設定するため、出力や時間、物の形状など事細かに数値を入力しなければならず、使用者側に職人技のような熟練者のノウハウが必要でした。
最新機では熟練者以外でも最適な加熱条件を簡単に設定できるよう機械側で形や重さなどを自動計測することで、誰でも簡単に使用できるように一部自動化されています。
今後はAIの研究を進め、2025年までには、加熱条件の設定に必要なデータを全てAIによって計測できる高度な自動化を目指しています。
自社成長のための市場拡大
製造工程で加熱処理を行っている企業は数え切れないほどあり、その中でも十分に加熱できていなかったり、効率性・生産性が悪かったりなどの課題を持っている企業も多いと思われます。
それぞれ製造している製品や加工している部品は異なり、製造ラインも多種多様ですが、その中のどこかには電波による誘電加熱を活用することで、合理化、省エネ化の実現が可能かも知れません。
同社がその課題を全て解決できるわけではないですが、培ってきた誘電加熱の技術を活かして、企業に寄り添いながら一緒に課題を解決していく。
そんなソリューションカンパニーをめざし、山本さんは誘電加熱の裾野を広げていく体制を整えています。
「誘電加熱業界の市場規模は小さく国内で80億円程度です。当社がいくら大きなシェアを取っていても、市場全体が育たなければ会社の成長は頭打ちになってしまいます。我々が牽引役となって誘電加熱の市場を拡大させる。その使命が山本ビニターにはあると思っている。」と山本さんは話します。
創業70周年を迎えたこれからの山本ビニター
山本ビニターでは、創業70周年を期に新しい経営理念体系を策定しました。
全社員の意識を統一させるため、社是である「常に一歩前進」はそのままに、経営理念を「Spirit(大切にすべき精神)」と「Mission(日々果たすべき使命)」に落とし込み、今回新たに「Vision(実現したい未来)」と「Slogan(ブランドの合言葉)」を加えました。
スローガンは「Creating Tomorrow with e-Wave」で「電波と共に明日を創ろう」という意味です。
新しいVisionとSloganは、社員が提案してくれたそうです。
同社は誘電加熱の市場を広げるため、「市場拡大プロジェクト」を掲げ、60周年の時に将来リーダーとして育成した部課長クラスが、市場拡大という課題に対して、独立行政法人中小企業基盤整備機構の専門家派遣事業を受けながら1年間の研修を行いました。
その研修の成果のひとつとして、経営理念体系を見直そうという提案があったとのことでした。
「社員のおかげで今の時代に合った経営理念体系ができましたが、この理念を全社員に浸透させることがこれからの課題です。この理念のもとで社員一丸となって、誘電加熱装置のリーディグカンパニーとして、会社の成長と誘電加熱の市場拡大を目指していきます」と山本さんは話します。
誘電加熱技術でもって市場を熱くする、山本ビニターに今後も注目していきたいと思います。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html
地域未来牽引企業
地域内外の取引実態や雇用・売上高を勘案し、地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれるとともに、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手、および担い手候補である企業を、経済産業省では「地域未来牽引企業」として選定しています。
https://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/chiiki_kenin_kigyou/index.html