現代の名工が育む、社員から愛される会社とものづくりの町生野(株式会社リゲッタ)
大阪市生野区にある株式会社リゲッタは、代表の高本 泰朗さんの父親が1968年に 『タカモトゴム工業所』として設立した歴史のある企業です。
履き心地とデザイン性を追求した靴作りを手がけ、「グッドデザイン賞 2019」や「大阪ものづくり優良企業賞2022」受賞のほか、大阪府主催の「大阪製ブランド」認定や、令和5年度 はばたく中小企業・小規模事業者300社への選出など、めざましい成長を遂げています。
今回は、リゲッタの代表であり、令和6年度の卓越した技能者(通称「現代の名工」、靴デザイナー/厚生労働省)を受賞された高本さんに、彼が育んできた会社の軌跡についてお話を伺いました。
靴職人を志す一方、下請の厳しさも痛感
高校生時代、高本さんは自分の進路についてあまり考えていなかったと振り返ります。周りが進路を決めていく中、なかなか自分の将来を決めることが出来なかった時に、父の勧めをきっかけに専門学校への進学を決め、卒業後は神戸のメーカーに勤め、靴作りの修行を行いました。
神戸での修行を終え家業であるタカモトゴム工業所に戻った高本さんですが、当時はメーカーの下請として受注した製品の製造、納品を行う傍ら、メーカーへの新製品の提案も行っていたそうです。
ところが、売上の全てを占めていたメーカーの社長の代替わりを機に契約を切られてしまいました。長年の付き合いがなくなり父親は非常に落ち込み、自身も将来への不安で眠れませんでした。どこか別のメーカーの下請をしようかとも考えましたが、自分で企画づくりからやりたいと考え、覚悟を決めて父親に「メーカーをやらないか」と提案したと言います。父親も息子からの言葉を待っていたのではないかと当時を振り返ります。
こうして、下請からメーカーへ新たなスタートを切ったのです。
メーカーへの変革と更なる苦悩
メーカーへの転身を決意してから、まずは自社の製品を知ってもらうために、すぐに展示会への準備を始めました。信用と繋がりが勝負となる展示会。最初のうちは注文が入ることはありませんでした。それでも修行や下請時代の経験を活かし次々に新しいデザインを提案することで、評価してくれる人も増え、少しずつ注文が入っていくようになりました。
しかし、新しい商品が売れるのと同時に、安価なコピー製品も出回るようになってしまいました。中国製の価格を抑えた類似製品が大量に生産されていたのです。
「このような競合に対抗するためにはよりコストを下げる必要がある」と考え、高本さんも一時は中国での生産を検討したそうです。しかし、創業者の父親のこだわりである「生野でものづくりを続ける意味」を今一度熟考し、「MADE IN JAPAN、メイドイン生野」を貫くことを決意しました。
そして日本の伝統的な履物である下駄を、硬いアスファルトを歩く現代人の足にフィットするよう再設計した「Re:getA(リゲッタ)」ブランドを立ち上げました。
展示会でも工夫し、このリゲッタの優れた機能性を事細かに箱に記載することでバイヤーにもその魅力が伝わりやすくなった結果、大成功となりました。しかし、翌年またコピーされてしまったのです。再三のコピー製品の流通から人間不信になりかけたと言います。
コピーに悩まされた日々からの転機と急成長
コピー製品に悩まされながらも販路拡大に向けて奮戦する中、ある展示会で向かいのブースにいた方から「出る展示会、間違えていない?」と声をかけられた高本さん。10万人以上のバイヤーが集う展示会があることを聞き、父親に頼み込み、最後のチャンスとして「東京インターナショナル・ギフト・ショー」に参加することにしました。
これまで出展経験のなかったギフト商品の展示会でしたが、名刺を交換した企業が従来に比べて10倍以上に増え、その後の注文も殺到し、正直驚いたと言います。生野区では高いといわれる4,980円も、日本製のサンダルとしては安すぎるほどでした。
日々新しいものを作っていたのに、新しいジャンルの展示会には行かなかった。靴の知識はどんどん増えていた一方で、売り方に関する知識が無かったのです。いくら良い製品を作っても、売り方が間違っていれば売れないという当たり前のことですが、それを学ぶ大変貴重な機会となりました。
ところが、一難去ってまた一難。今度黒字倒産の危機に瀕します。売上が伸びた一方で、協力企業への支払が増加し、会社の現金が少なくなったのです。下請切りによるつらい経験をした高本さんは、倒産の危機であっても、下請切りをせず生野での生産を続けました。父親から引き継いだ会社を残すという強い想いのもと、一家総出で運転資金をかき集め、倒産させずに続けることができました。
自主性を育む、会社経営に対する信念
このように経営に苦しんだ高本さんの経営哲学は「すべて見せる」です。普通は見せにくい役員報酬や、決算書、夫婦喧嘩に至るまですべてを開示するガラス張り経営を行っています。
そんなリゲッタでは、社員一人ひとりの経営意識を高めるため、全社員参加型の研修を毎年行っています。社員全員で作りあげた「楽しく歩く人をふやす」という経営理念を見つめ直し、自分達が10年後どうありたいかなどを話し合います。この研修の企画・運営も社員が主体的に行っており、研修を通して社員の自主性を育めればいいなと高本さんは考えています。
また、毎年社長と1対1で自己評価面談を行い、昇給の希望についても聞いています。研修を通して自主性を育むだけでなく、社長自らが社員一人ひとりと対話をしながら、ありたい姿を引き出し、評価を行っています。
更に、社員に主体的な経営への参加を促したい高本さんは、毎月の会社の収支を確認する試算会議にも自由参加という形をとっているそうです。自由参加ではありますが、経営への参加という意識を忘れないよう、参加者に対し時には厳しく売上や経費の因果関係の確認を求めていると言います。
こうした取り組みを積み重ねた結果、毎年の経営方針説明会での売上報告や中期経営計画の振り返りを社員が担当することが増えてきたそうで、その成長の様子を見て高本さんはワクワクしているそうです。
色々なバックヤードをもった多様な世代の社員を抱える同社。いろんな立場の社員がお互いの考えや知見をぶつけあいつつ、少しずつ次の世代に会社を引き継いでいきたいと高本さんは考えています。
2025年関西万博での出展
リゲッタでは新たな挑戦として、2025年大阪・関西万博に「空に浮く靴」を出展します。
「浮いていたら、歩くことは出来ない」と高本さんは言います。確かに地面の摩擦が無ければ前に進むことは出来ません。しかし瞬間的にでも浮くことがあれば、介護の現場では楽になるかもしれません。
必ずしも今回の出展で完成品ができるわけではないですが、その靴をみた次世代の人達に、今回のチャレンジ・想いが引き継がれ、新たな挑戦を産み出すきっかけとなればいいと考えているそうです。
編集後記
下請切りに悩み、コピー製品に悩み、黒字倒産の危機に悩み、苦悩の連続だったのだろうと思います。苦悩の中でも、生野の職人を大切にし、スタッフを大切にしてきたことが今のリゲッタができあがったのだろうと思います。現代の名工である高本さんに育てられた弟子たちの中から次の名工が生まれる日もそう遠くはないのかもしれません。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
近畿経済産業局では、年間1,000件以上にも及ぶ企業・団体を訪問し、企業の変革のための挑戦を捉え、2025・2030年の先、将来を見据えた変化の「兆」として紹介するために、「KIZASHI [関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆(きざし)]」として、作成、公表しています。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html