今日も仕事したいな、と思える毎日のために利益を紡ぎ、事業を続け、社会に届ける(シリーズ:地域と価値とビジネスを巡る探求と深化 四国編)
オウライ株式会社のミッションは「新しい"オウライ"(往来)インフラの創造」だ。様々なアイディアや技術を活用し事業の三本柱である、ヒト、モノ、カルチャーの「往来」を促すような事業を行っていくことで、社会を変えるきっかけを創り出している。
近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第11回は、オウライ株式会社の代表を務める西崎健人さんです。四国経済産業局とのコラボ企画です。
出会ったことがないヒトやモノに出会うと価値観が広がる。そういった積み重ねのひとつひとつが、オウライ株式会社のビジョンである「多様な価値観を受け入れられる社会の実現」に繋がるのではないか。
そのような考え方のもと、宿泊・ワーキング施設の企画と運営、地域の起業家育成プログラムの実施、ローカル起業家プラットフォーム「So-Gu」の運営【ヒト事業】、飲食・物販店運営やシステム開発【モノ事業】、イベント企画・運営や地域有志団体の立ち上げ【カルチャー事業】を行っている西崎さんに、社会的な価値と利益とは何か、という問いを投げかけ、インタビューは始まった。
たまたま「社会的価値」として評価されている意識
「社会的価値」を作っているという自覚は、正直あまりない。
私たちはビジョンに掲げている「多様な価値観を受け入れられる社会の実現」を目指しているが、価値というものは、捉える側がそれを価値かどうかを判断するものなので、自分たちがやってきた事業を外から見たら「社会的価値」を生んでいるように見えるのかもしれない。
私たちが生み出せるのは価値ではなく、社会的インパクトに留まると考えている。組織として今まで会ったことがないヒトや、体験したことがないモノとの出会いを促進しており、それを具体化したのが、たまたま飲食店や宿泊施設の運営であったり、ローカル起業家プラットフォームの「So-Gu」であったりした。
もちろん「社会的価値」を否定しているわけではないので、ビジョンやミッションを掲げて事業をやってきた結果、「社会的価値」があると評価されるのはありがたいと思う。
事業の継続で利益を生み出し、新規事業に投資する
原則として金銭的利益が生まれるというのは、普段のサービスや取り組みに対して、対価を払ってまで使って楽しみたいと思ってくれた人が多いということだ。それはとても喜ばしい事実だと思う。
ただし、私は何よりも「継続性」が大切だと思っている。そして、その継続性のためには利益が必要だと考えている。事業を継続できないと自分よがりの取り組みでしかなくなってしまう。事業の継続で利益が生まれ、それを既存の事業や新しい事業に投資することで、今行っている活動の規模を大きくしていける。金銭的な利益がなければ、新規事業に投資もできず、自分やスタッフも楽しんで仕事ができない。
「ああ今日も仕事したいな」と思える状況に自分たちがいるために、事業を継続させて利益を生みだしていくことが第一だと考えている。
「社会的価値」と「金銭的利益」のバランスを保ちたい
私たちは事業活動を通して、当社のミッションでもある「新しい往来インフラの創造」を行い、その実現を通じて、ビジョンである「多様な価値観を受け入れられる社会の実現」を事業者として目指している。
利益は、それらを達成するために必要なものだと考えており、事業活動を行う上で判断基準を2つ設けている。
1つは、自分たちのビジョンやミッションに沿って事業を行ったり、始めようとしているかどうかというところ。もう1つは、金銭的利益が出るものかどうかというところだ。
今まで行ってきた事業で言えば、1つの事業内で「社会的価値」と「利益」のバランスを取るのではなく、全ての事業をトータルで見て、両者のバランスが取れるように設計している。私も関わっている地域有志団体の「イケダアップ商店」が主催する「イケダ夜市」は、「社会的価値」に重きを置いているが、別の事業で「利益」が8割を占めるようなものもある。
利益が出ないと継続性が出ないし、継続性がないと事業がなくなってしまうので、「社会的価値」も創出できない。そして「利益」を出して事業を継続することで「社会的価値」は作れると思っている。
自分の考えを伝え、率先して実行する
このような事業を続けていくために、代表である私自身の思いをシンプルな言葉にして、それを率先して体現していくことで、スタッフたちと価値を信じ合えるように工夫している。
仮に私が考えている内容を言葉だけで伝えたとしても、実行が伴わなければ思いが伝わりづらい。サービスを作る事業会社の責任者として、将来像が決まったら率先してコミュニケーションを取り、実行に移していく必要があると考えている。
KEY PERSON PROFILE
シリーズ:地域と価値とビジネスを巡る探求と深化
日本は人口減少という社会の大きな構造変化に直面しています。特に地方経済に目を向けると、少子高齢化の進展と若者世代の首都圏への流出の加速、加えて価値観の多様性やVUCAといった、多様かつ複雑な課題への対応が迫られています。
経済産業省では「産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」において、我が国経済の長期持続的な成長環境を構築すべく「国内投資拡大、イノベーション加速、国民所得向上の3つの好循環」を実現のため、地方と都会、大企業と中小企業といった格差解消を成長につなげつつ、域内需要の減少をもたらす少子化を食い止める「地域の包摂的成長」という考え方を重視しています。
それを受け、近畿経済産業局では、東北経済産業局、四国経済産業局と連携し、「今、地域・社会の価値向上につながる営みとは」「それを担い得る人物とは」について、様々な活動の実際から示唆を得るべく2020年度から本事業を開始しました。その中で、地域の魅力を捉え直し、強みに変え、内外の人々を巻き込み、プロジェクトを推進する「キーパーソン」の存在を捉え、その素養や行動様式などについて解像度を高めながら、多様な地域・場で活躍する様々な「キーパーソン」を発掘してきました。
KEY PERSON PROFILE(キーパーソン探訪&リサーチレポート)
本稿は「KEY PERSON PROFILE 3 地域と価値とビジネスをめぐる探求と深化 自分と社会の関わりしろを捉え価値づくりに臨む十三人による探求(令和5年度)」に掲載の記事を再編集して掲載したものです。