ドローン×AIで世界中の森林を守る(DeepForest Technologies株式会社)
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。
年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
2022年10月に発表された「KIZASHI vol.18 『8 future technologies in Kansai – シリーズ:2025の先に待つ未来を描く 01 -』」では、非線形的な未来を掲げ、様々なアイデアとテクノロジーの力で未来を描き、実現に向けて挑戦する変革者を特集しています。
その中でもドローンとAIを組み合わせ、森林樹木を精緻に識別し森林価値の向上を目指すスタートアップが、DeepForest Technologies株式会社です。
深刻化する自然災害を防ぐため、世界中の森林を守りたい
近年、集中豪雨等による災害が激しさを増し、気候変動の影響にいかに社会が対応していくべきか、世界的な課題となっています。
そのような中、森林がもつ炭素吸収力や土砂災害を防ぐ機能について、改めて注目されています。
この世界的な社会課題に対し期待を集める企業が、ドローンとAIの技術で世界の森林を守る京都大学発のスタートアップ、DeepForest Technologies株式会社です。
代表取締役の大西信德さんは、中高生時代から熱帯雨林の伐採問題に関心を持ち、森林科学研究の最先端を行く京都大学に進学しました。
世界初!ドローンとAIの組み合わせで森林の樹木を精緻に識別
森林の管理や調査研究を進める上で、樹木の群生状況の正確な把握が不可欠ですが、1本ずつのレベルまで樹木の種類や高さを測るには、大変な労力がかかります。
それこそ、自治体の森林管理担当者の方が、山中をくまなく歩き、測定しながら調査を行っているのが現状です。
そこで大西さんは、リモートセンシング(遠隔探査)により、上空から森林全体を計測・分析する手法を採用しました。
一般的にリモートセンシングと言えば、衛星や航空機からレーザーや電磁波等を活用する計測作業ですが、コスト高の割に概算計測となってしまい、思った以上の効果がでないのが課題でした。
そんな中、大西さんは、ドローンから撮影したデジタル画像から単木レベルで種類の識別やサイズが高精度に解析できる、AIのディープラーニング機能を持った地理情報システムソフトを開発しました。
低コストで効果的な森林調査が可能となることが見込まれています。
研究の成果を社会に役立てるために起業
大西さんが、博士課程在籍中にこの研究成果を論文発表したところ、国内メーカーから連絡があり、メーカーの保有林における植生マッピングによる現状の森林の再現と、将来の森林予測と影響についての共同研究に繋がりました。
国内外からも多くの問い合わせを受け、大西さんはこの技術の需要の高さに気づきました。
そして、研究を世の中に役立てるため、サービスの形として提供していきたいとの想いを強くしていく中、個人旅行で訪れたマサチューセッツ工科大学では、構内に起業した卒業生の成果品が普通に展示されている光景を目の当たりにします。
アメリカでは博士過程の先に起業が自然にあるということに刺激を受けたのです。
起業への想いを高めた大西さんは、2021年4月に京都大学の産学共同実用化促進事業「インキュベーションプログラム」に応募、見事採用され、前身の「Deep Forest」を発足しました。
2022年3月に現在の「DeepForest Technologies株式会社」として法人登録を行い、一般の人が誰でも使える森林解析ソフトウェアの開発に磨きをかけています。
目指すは、炭素排出権取引での森林価値の向上と、林業の高収益化
同社が目指すのは、このドローンとAIを使った世界初の技術により、行政の防災リスク管理や、林業における計画的な植林・間伐への活用にとどまりません。
炭素吸収量の正確な把握による排出権取引での収益化など、森林を経済の枠組みに取り込むことで、森林の価値を高め、保全に繋げていくことを大きなミッションとしています。
地球が100年後もすべての生物にとって棲みよい環境であるために、使命感を持って進んでいきます。