見出し画像

「地域活性化と企業成長を循環させる」瑞穂工作所の挑戦(株式会社瑞穂工作所)

河内長野市に根付く株式会社瑞穂工作所は、精密板金加工など金属プレス加工を生業とする会社です。 
1967年(昭和42年)に現社長の父親が起業し、自転車部品や白物製品を中心に穴開け加工やプレス加工で事業を拡大し、1989年(平成元年)からは現在の精密板金加工を中心に成長を続けています。

2019年に現社長の荒木伸規さんへとバトンタッチし、現在は河内長野市の地域一体型オープンカンパニー「ワークワクワク河内長野」(以下、『ワクワク』とする)の実行委員会会長としても地域を牽引しています。

株式会社瑞穂工作所
設立  :​昭和48年12月(創業:昭和42年2月)
資本金 :​2,000万円
従業員数:​28名
業種  :​金属プレス加工及精密板金加工
所在地 :大阪府河内長野市上原西町6-1
#オープンカンパニー #インナーブランディング
#アウターブランディング #縁の循環 #ワークワクワク河内長野

起業当初こそ、量産品の加工を手がけ成長してきた同社ですが、1989年(平成元年)に量産加工の将来に不安を抱きはじめ、新たな事業展開を模索しました。
「難加工だからこそ生まれる価格優位性」の将来性に期待を掛けた先代社長の決断で「精密板金加工」事業へ舵を切りました。

精密板金加工を始めた当初こそ受注が少なかったですが、心配してくれた東大阪市の企業から仕事を紹介していただくことで実績を上げ、今ではその受注先が売上の6割を占める大得意先となっています。 


地域との繋がりの始まり

思いがけないご縁で新事業が軌道に乗った同社でしたが、オープンカンパニー(※)との出会いも偶然でした。

(※)オープンカンパニー(オープンファクトリー)
・・・「オープンファクトリー」とは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開し、来場者にものづくりを体験してもらう取組であり、従来から工場見学やツアーといった形態で実施されてきましたが、近年では、ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など、一定の産業集積がみられる地域を中心に、企業単独ではなく、地域内の企業等が面として集まり、地域を一体的に見せていく「地域一体型オープンファクトリー」が全国的に拡大しています。

同社が所在する河内長野市では、製造業に捕らわれず多様な業種が現場を公開する取り組みを「オープンカンパニー」と呼んでいます。

(参考)近畿経済産業局:地域一体型オープンファクトリー

事業成長に伴う生産拡大のために新たな工場用地を探していたところ、地域の金融機関及び市役所の担当から「(赤峰)市民広場が産業用地になるので公募に参加しないか」と話がありました。
渡りに船の話だったので、すぐに市役所の方と打ち合わせを行いました。
その打ち合わせの最後に「市内の企業を集めて地域一体型オープンカンパニーをしようと思っている。是非参加してくれないか。」と誘いを受けました。
産業用地の話がある手前、断ることもできずに、正直なところ半ば渋々参加を決めたのが当時の本音でした。

しかしながら、地域一体型オープンカンパニーの取組は1年目から地域だけでなく、自社(社員)にも大きな変化をもたらしました。
これは市役所の産業担当職員が熱意を持って参画企業の募集に奔走し、「河内長野の産業を共に盛り上げたい!」という思いで、「共に動く行政」を体現した結果、初回にもかかわらず18社の企業等が参画しました。

取組を通して自分たちで取組の名称やロゴも検討しました。
「ワクワクする仕事(ワーク)の現場や、それらを育む基盤となる地域の歴史・文化等を直接見て感じて知ってもらいたい」という願いを込めて、「ワークワクワク河内長野」という名称とロゴが紡がれました。

ワクワクの様子

同社では『ワクワク』には中堅社員2人と荒木さんの計3人で取り組みました。
社員さんの主体性を尊重したい荒木さんの想いから、ワークショップの企画は社員さんたちだけで検討しました。
自社の技術を効果的に活用し、かつ参加者が楽しめるような企画として、板金を曲げてブックエンドなどのアイテムを作るワークショップを工場見学と共に提供するなど、実際に製造で使用している設備を使ったリアルな体験は参加者に大好評でした。 

参加企業が来場者に提供するワークショップサンプル

企業(社員)の変化:企業(社員)成長の潤滑油となるオープンカンパニー

オープンカンパニーの目的は、自社の製品や技術を多くの人に知ってもらうということだけではありません。
オープンカンパニーの取組が、社員さんの自主性を育むことになるのです。

実際同社で取り組んでいた2人の社員さんの意識は徐々に変わっていきました。
『ワクワク』の定例会(本番開催までの準備会議・勉強会)に参加した社員さんたちから「他の業種の方々ともっと交流を深めたい、名前を覚えてもらいたいので自分たちも名刺を作って欲しい」と自ら声が挙がるようになり、普段の仕事では使わない名刺の作成なども行いました。

一方で関わっている3人以外の社員さんは『ワクワク』についてあまり関心がありませんでしたが、初めての『ワクワク』の開催日、多くの一般参加者が訪れたことに驚きました。

そこで2人の社員が一生懸命説明や案内をしている姿を一般参加者に混ざって他の社員さんもオープンカンパニーの様子を見学・体験したのです。

大勢の参加者の前で自分たちの仕事について説明する社長や社員さんたちの姿や、嬉しそうな顔でワークショップをしている一般参加者を見た他の社員さんたちは深く感動し、取り組んだ社員たちに賞賛の言葉を贈りました。

褒められた本人たちはもちろんのこと、自社で行われている素晴らしい取組を知った他の社員さんたちも、会社に誇りをもつことができたのです。
これはまさにオープンカンパニーという手法を通した「インナーブランディング(企業の理念やビジョンを従業員に浸透させるブランディング活動)」となりました。

自分達らしさのあるオープンカンパニーの実施検討会

また、オープンカンパニーの取組は、会社の人材不足を解消する手段として効果を発揮しています。
自社の技術や製品を多くの人々に認知してもらうことによって、その会社に興味を持つ人が増えるためです。

同社においても、「いつかそのような結果に繋がれば良い」程度で考えていましたが、その効果を第一回目の『ワクワク』から体感することになりました。

第一回実施後に、3人が立て続けに採用の応募が来たのです。
もちろんこの効果がオープンカンパニーのみの効果とは断言できませんが、そのようなペースで応募が来たことはこれまで経験がなく、効果を体感するには十分な出来事でした。

また、出張イベントに参加してくれた中学生から「この会社で絶対働きたい。どうしたら入社できるのか。」と熱いラブコールを受けたことも記憶に新しいとのことでした。

これは同社において、ワークショップやオープンカンパニーの実施を通して自社の価値(強み)を再認識することができ、社員から自発的提案・製品開発のアイデアが出てくるようになり、社員の自主性が成長した「インナーブランディング」効果で会社自体が成長し、実際の商取引や人材確保に繋がる等の「アウターブランディング(企業が外部向けにおこなうブランディング戦略で、自社の価値やビジョンを伝えることを目的)」に繋がったものと考えられるのではないでしょうか。

そしてこの人材面での成功体験が社員さんたちの自尊心を高め、また新たな「インナーブランディング」に繋がる好循環へと繋がっていくものと期待されます。

縁の循環と価値創造

こうした効果を体現する同社には、近年『ワクワク』を代表しての講演依頼が増えています。
直近でも同じように他地域で取り組まれている地域一体型オープンファクトリーの「不器用ファクトリー」や「泉州オープンファクトリー」、そして「O-Round」からも声が掛かり、各地で『ワクワク』の取組やこれからについて積極的に講演対応を行っています。

他地域での講演機会(不器用FACTORYさんにて)

荒木さんは、「『ワクワク』は地元への愛を表現するツールだ。河内長野が元気になれば、自社もさらに元気になる。」と話します。
このような「縁の循環」は同社のこれまでの成長の軌跡を彷彿とさせます。
荒木さんが対外的な講演を積極的に対応されるのも、「河内長野が元気になれば、自社もさらに元気になる」という信念に基づく活動であり、企業成長とともに地域に新しい価値を繋いでいくための礎と言えるでしょう。

地域への熱い思いを胸に、荒木さんは今後も「ワクワク」の活動を広げるとともに、企業のさらなる成長にも繋げていきます。

初回開催を終えたワークワクワク関係者一同

KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

近畿経済産業局では、年間1,000件以上にも及ぶ企業・団体を訪問し、企業の変革のための挑戦を捉え、2025・2030年の先、将来を見据えた変化の「兆」として紹介するために、「KIZASHI  [関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆(きざし)]」として、作成、公表しています。

https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html