パーツの未来も地域の未来も- カネエム工業株式会社 -(シリーズ:オープンファクトリー #6)
関西各地でオープンファクトリーを実施している企業様へのインタビューを通じ、どんな想いを込め取組を始めたのか、取組により企業や社員にどのような変化があったのか、オープンファクトリーの魅力を紹介するシリーズ:オープンファクトリー(バックナンバーはこちら↓)
第6回は、カネエム工業株式会社さんをご紹介します。
無限大のパーツ作り
八尾市に拠点を置くカネエム工業株式会社は、「パーツの未来を作る」をキーワードに、主に金属のプレス加工によるアパレル用のボタンやリベット、ハトメを製造しています。
靴のひもを通す部分に使われるハトメの製造からはじまった同社。現在では国内で2社しかないジーンズボタンの製造を行う国内有数の企業でもありす。
プレス後の色加工・表面加工の一部を自社で対応するだけでなく、プレスで用いる金型も自社で制作しており、顧客要望に広く対応できるのが同社の強みです。
材料、商品、色などの組み合わせはもはや無限。創業以来アーカイブ化されている金型は、数千種類にのぼります。
同社の発展に寄与したのが、ジーンズなどにリベットを打ち付ける留め具として使われる鋲(びょう)の独自製法の開発です。
1970年代、若者の間でジーンズが流行したことをきっかけに、先代社長がジーンズリベットの将来性に注目し、技術開発を始めました。当時の鋲は「線材」と呼ばれる金属線で作られており、製造コストが高く、品質が劣ることもありました。
そこで、海外製の鋲を参考に、「板材」を使った鋲づくりに挑戦することに。数年にわたる試行錯誤の末、従来品と比べて低コストかつ強度にも優れたジーンズリベットの大量生産に成功し、国内のジーンズ縫製工場のみならず、世界中で爆発的な人気を博しました。
この技術をはじめ、様々な特許取得を積極的に行っており、現在では、アパレル業界のみならず自動車業界や建設業界においても、副資材メーカーとして多種多様な製品を提供しています。
そんな独自の技術から小さな芸術品を生み出すカネエム工業の経営企画室長 北村悠太郎さんにオープンファクトリーへの思いをお聞きしました。
オープンファクトリーとの出会い
大学で都市計画を専攻し、特に観光地の認知度が地域に与える影響を研究していた北村さん。民間企業への勤務を経て入社した当時から、「地元八尾を盛り上げるために何かできないか」と考えていたといいます。
会社としても、販路維持や雇用確保のために、認知度向上が必要だと感じていたこともあり、「多くの人に知ってもらえる会社にする」ことを目標に掲げました。
そんな中、地域のものづくり拠点である「みせるばやお」を通じ、八尾市等を中心にオープンファクトリーイベント「FactorISM」が開催されることを耳にし、「面白そう!」「これだ!」と感じた北村さん。参加申し込み期限を過ぎていましたが、運営に猛アタックし、急遽参加が決まりました。
このドラマチックな初回参加から、毎年FactorISMに参加しています。
つながりを生み出すオープンファクトリー
オープンファクトリーに参加することでこれまで付き合いのなかった地域の他企業と出会い、交流することで新たなつながりが生まれました。
先代社長である、御祖父様が地域とのつながりを重視していたことが印象に残っていたこともあり、オープンファクトリーをきっかけにできたつながりを大切にしようと、事務局メンバーとして運営側の役割も担うなど、今ではFactorISMの牽引役になっている北村さん。
近鉄大阪線の線路北側の企業でチームを組んだ八尾北連合では、複数社が合同で縁日やワークショップを行うなど、地域を盛り上げる活動を積極的に行っています。
また、FactorISMの有志でロックバンド「みせるばんど」を結成。テーマソングを作曲するなど、同バンドのサウンドは、FactorISMに欠かせない名物コンテンツです。
「つながることで、他社の哲学や姿勢を学ぶことができ、自社にとって大きなプラスになっています。」と北村さん。
他社からの刺激は、新商品の開発など新たな挑戦の原動力になっています。
社員の協力と工場の変化
「FactorISM(初回)が開催された2日間のうち、土曜日は通常工場が停止している曜日だったこともあり、どう見せるか悩ましかったです。」と北村さんは語ります。
オープンファクトリー自体初めてで、社内の反応がまちまちだったのもあり、協力してくれる社員がいるかも不安だったそうです。
幸い、少数ながらも、オープンファクトリーに賛同してくれた社員がいたことで、1台の機械を動かせることができ、ボタン作りやボタン型のマグネット作りなどのワークショップを行い、少人数ながらも来場者が楽しめる工夫を凝らして実施することができました。
その後、オープンファクトリー同様、外部の方と触れる機会を社員に体験してもらうべくマルシェを開催したり、月1回の土曜日出勤をイベント開催日と同じになるよう調整するなど、社員の負担を減らしてイベントを開催する工夫をしています。
これらの取組を通じ、徐々に様々な社員が関わるようになり、社員が自身の事業の説明を行うことも増えました。
また、工場が外部から見られることへの意識が高まり、清掃などの5S活動が進み、工場内をきれいに保つことにも一役買っています。
カネエム工業が描く未来
オープンファクトリー参加後、相談や問い合わせが増え、当初の目的であった認知度の向上に確かな手応えを感じているカネエム工業。
次なる展望を伺うと、
「自社への還元はもちろん大切ですが、オープンファクトリーをきっかけに、ものづくり企業が一丸となり、地域で盛り上がり、全体で認知度を高めることが大切です。そこから、お客さんや雇用が生まれ、市場が拡大し、自社も成長する。そんな未来が理想です。」
と語る北村さん。
オープンファクトリーを加速装置にし、パーツ業界、そして地域に革新を起こすべく、新しさと楽しさへの挑戦を続ける同社の今後に注目です。
オープンファクトリーとは
オープンファクトリーとは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取組です。
取組を通じて新たな接点やコミュニケーションが生まれるだけでなく、社員の成長やモチベーションにもプラスの影響を与えるという点で、現在注目を浴びています。
近年では、企業単独の取組はもちろん、ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など産業が集積している地域を中心に、地域内の企業等が面として集まり、地域を一体的に見せていく「地域一体型オープンファクトリー」も全国で広がりを見せています。