大学生と共同開発した化粧用パフ「hanapuff(ハナパフ)」(株式会社杣長)
株式会社杣長(そまちょう)は京都・西陣で創業90年の天鵞絨(ビロード)を製造する老舗企業です。
西陣で唯一の天鵞絨(ビロード)メーカー
かつて西陣地域は日本におけるビロード 発祥の地と呼ばれ、多くの工場が稼働していましたが、現在は同社が西陣唯一となっています。
同社のビロードは衣類や雑貨及びインテリア等に幅広く使用されていて、中でも羽毛のような光沢と風合いを兼ね備えた約30種類に及ぶ化粧用パフ生地は、化粧用パフメーカーにおいて高級ランクとされ国産化粧用パフ用生地市場シェアの約6割を占めています。
しかしながら受注生産へ特化した結果、シェアは確保できているものの、パフ生地の使用感などの自社商品の特性を把握する機会がなかったことが取引先への提案力、ひいては自社のブランド力の課題であると、常務の杣さんは考えていました。
そこで常務は、生地ごとの使用感等の特性について相談するため、地方独立行政法人京都市産業技術研究所を訪ねました。
産官学で生地の評価を確立して化粧用パフを開発
一般的に、生地の肌触りに影響する性質を測定する際には摩擦測定機を使用しますが、同社の生地は一般的な生地とは異なって厚みがあり、パイルの毛羽が多いなどの特徴があることから同じ測定方法を用いることは困難でした。
そこで京都市産業技術研究所は、同社のビロード生地にふさわしい測定方法を検討しましたが、「”測定機器を用いて得られる結果”と”人の使用感”がどのように関連しているか」の調査が必要であるとの考えに至りました。
他方、当時、京都光華女子大学では、商品企画等を通じて企業のリアルな課題を解決する産官学連携活動に取り組んでおり、連携先となる企業を探していました。
そこで京都市産業技術研究所は、同社の課題解決のヒントになるとの期待から、同大学と連携した使用感の評価および化粧用パフの開発を提案し、調整を経て連携をスタートしました。
京都市産業技術研究所での研究結果を基にサンプル生地を選定し、学生の感想の声を参考に、評価に適した用語や評価の条件を確立しました。
また商品開発では、大学生が好むパフ生地を用いた京都らしいデザインがコンセプトのパフ「hanapuff」(ハナパフ)を企画し、2021年に大学内で販売しました 。
この一連の取組は、自社商品の定量的な特性の把握になり、新商品開発に繋がるきっかけとなりました。
今回の連携は同社にとって「ブラシ等の代替製品の登場でパフ使用者は減少傾向と思っていたが、予想以上に高評価で、若い女性の好む肌触りやデザインの嗜好等、使用者の生の声に触れる絶好の機会となった」と杣さんは語ります。
連携の経験が次の挑戦への一歩に
初めての産官学連携は取組の進捗管理など、京都市産業技術研究所のサポートで当初の想定を超えた成果が得られました。
また、使用者の声を直接聞く機会は、社内における新たな企業風土の創生の転機になり、新規事業に意欲的になりました。
これらの経験から、自分を大事にするをコンセプトにした自社ブランド「ーNOBODYー」を立ち上げ、糸や染色加工、縫製等、製造工程に関わる取引先等と共同で進めています。
このほかにも様々なプロジェクトが立ち上がっています。
同社は、今後も京都市産業技術研究所との連携を通じてビロード生地の新たな可能性を模索しつつ、同社が手掛ける高品質なパフ生地の良さを消費者に知ってもらう機会を更に増やし、ビロードの伝統を繋いでいきます。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
2023年11月に発表された「KIZASHI vol.23『公設試との連携のもと躍進する企業』編」では、公設試の活用をきっかけに躍進している、食品加工や医療機器、金属加工など幅広い業種の中小企業等11社を特集しています。
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公設試のすすめ2023
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