未来の若者に選ばれる価値ある仕事がある、そんな与謝野を町内外の人と共に創る(シリーズ:地域と価値とビジネスを巡る探求と深化 関西編)
株式会社ローカルフラッグは、京都府与謝野町を拠点とし、持続可能な地域づくりを目指して活動しているローカル・ベンチャーである。
地元である与謝野産ホップや牡蠣の殻を活用したクラフトビール「ASOBI」の製造・販売と醸造設備を持つ飲食店の運営、行政と連携した与謝野町への移住定住促進や京丹後地域の起業家やアトツギ等の人材育成などを行う地域プロデュース事業、開業100周年を控える与謝野駅(京都丹後鉄道)周辺のまちづくり事業に取り組んでいる。
近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第3回は、株式会社ローカルフラッグの代表を務める濱田祐太さんです。
同社では創業当初からのまちの中間支援的な活動は続ける一方で、自らリスクを取って事業を興すことで、まさに「地方の旗振り役」として地域を引っ張っていくための挑戦を続けている。
「まちの経済を盛り上げるためには、地域に住む人々が当事者意識を持ちやすく地域の外で販売しやすい商品を作って広め、外から人を呼ぶことが効果的だ」と考えている濱田さんに、社会的な価値と利益とは何か、という問いを投げかけ、インタビューは始まった。
「自分の街に対する期待感」という社会的価値
私たちが与謝野町になかった新たな事業を始めることで、地域の方々の「自分のまちへの期待感」は生み出せているかもしれない。特に、与謝野駅前に自社の醸造所・飲食店というハードの投資をしたことは、「ここで何かできそうだ、駅前が何か変わる」という空気感をもたらし、実際に駅がある地域の区長や住民有志と連携するまちづくり企画が動き始めた。
与謝野町への来訪者も増えているようで、地域経済の循環や、自身がローカルフラッグで活動する中で培ってきた金融関係者や経営者などの人的なネットワーク・情報の提供という形でも、地域に対して価値を発揮できているように思う。
また、与謝野町に移住を検討中の人や事業を始めたての人に対しては、環境整備や様々なリソースとのマッチングのために行政よりも柔軟に動けることが価値ではないかと感じている。
今、20代後半となる世代では、「社会課題を解決するために事業を行おう、そうすることで利益も出るはずだ」という考え方が一般的だと思う。自分も、事業活動を通じて地域に貢献するために起業しており、金銭的利益を出すことへの意識は、事業を進めるにつれより強くなった印象である。
30年後の若者に選ばれる、価値ある仕事を考える
私たちの活動は、与謝野町の人口が減っていく中でも選んでもらえる街にしていくこと、つまり、10年から30年後の地域住民に向けて行っているように思っている。
若者に住みたいと思ってもらうためには、①事業の意義、②周りにいる人のよさ、③賃金のうち、2つは揃う仕事が必要だろう。①がなければ人が来ない時代はやってくるだろうし、もちろん③がそれなりにあることも重要。
当社のようなまちづくりの会社は、与謝野・京丹後という地域をスコープに、ありとあらゆることを行う。個人的には、自分の事業が明確にまちの人に影響を与え、まちの風向きの変化を感じられることにやりがいや手応えを感じるし、まちの可能性を信じる生き方がかっこいいと思っている。
重視するのは、地域住民に共感され応援してもらえる事業であること
事業を通じて得られる利益としては、経済資本(金銭的利益)、社会関係資本の2つを考えている。
地域における信頼やネットワーク、事業活動を応援してくれる人などが社会関係資本にあたるだろう。そんな社会関係資本ができていく中で、多くの人と出会い、事業に対する社員のモチベーションや思いが高まることも利益の一つだと考える。また、私たちの事業が広がることで、与謝野町をよくしようと思う人が増えること、この地域で働く人が増えるという観点では、まちにもたらす利益もありそうだ。
そういった考えをもって事業を進めていく上で、特に重視しているのは、地域住民に共感され、応援してもらえる事業であるかどうかだ。私たちがお願いもしていないのに、使えそうな空き家や販売先になりうる店の情報をくれたり、勝手に他のお店や知り合いに自社のビールを紹介してくれたりと、住民の応援の厚さは弊社の特徴だと思っている。
実際、応援によっていリソースの調達にも優位になっているし、地域の方からも「今まで濱田くん達をどう応援したらいいか分からなかったが、ビールを販売してくれることによって、直接的な応援がしやすくなった」という声もあり応援が売上にもつながっていく。
もちろん、金銭的利益も重要だ。いい設備を導入すればおいしいビールができ、販売量が増えれば事業がまちにもたらす利益も増える。そう考えると、設備に投資しない手はない。指標とするならば粗利がいいだろう。それが社員への支払いの原資になるからだ。
そんな自分が、今応援してもらえているのは、「与謝野のためという共感できる志を持ち」「借金までして挑戦している」「若者」の希少性による部分もあると正直、考えている。
今後は現時点で与謝野を知らない人たちにも応援してもらえるようにしたり、常にその土俵の「最年少(応援の対象者)」でいられるよう、楽しみながら挑戦のステージを上げていったりする必要がありそうだ。20年程度のスパンで腰を据えて活動し、理念を維持しながら事業を回していくことも重要だろう。
社会的価値と利益の関係について
金銭的利益と社会的価値の理想的な関係は、「社会的価値を追求した結果として金銭的利益が生まれ、その利益を更なる社会的価値を追求する何かに投じる」という形だろう。本当に地域に対してインパクトのある取り組みをしようと思うなら、ビジネスで成果を上げて原資を得ることは不可欠だ。
一方で、短期的な金銭的利益を追い求めるほど、その舞台として非効率な市場が小さい地域は活動場所として選ばれなくなる。中長期的な視点をもって資金提供等の支援をいただける仕組みがあると、都市部以外でももっと大胆なチャレンジがしやすくなるだろう。
KEY PERSON PROFILE
シリーズ:地域と価値とビジネスを巡る探求と深化
日本は人口減少という社会の大きな構造変化に直面しています。特に地方経済に目を向けると、少子高齢化の進展と若者世代の首都圏への流出の加速、加えて価値観の多様性やVUCAといった、多様かつ複雑な課題への対応が迫られています。
経済産業省では「産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」において、我が国経済の長期持続的な成長環境を構築すべく「国内投資拡大、イノベーション加速、国民所得向上の3つの好循環」を実現のため、地方と都会、大企業と中小企業といった格差解消を成長につなげつつ、域内需要の減少をもたらす少子化を食い止める「地域の包摂的成長」という考え方を重視しています。
それを受け、近畿経済産業局では「今、地域・社会の価値向上につながる営みとは」「それを担い得る人物とは」について、様々な活動の実際から示唆を得るべく2020年度から本事業を開始しました。その中で、地域の魅力を捉え直し、強みに変え、内外の人々を巻き込み、プロジェクトを推進する「キーパーソン」の存在を捉え、その素養や行動様式などについて解像度を高めながら、多様な地域・場で活躍する様々な「キーパーソン」を発掘してきました。
KEY PERSON PROFILE(キーパーソン探訪&リサーチレポート)
本稿は「KEY PERSON PROFILE 3 地域と価値とビジネスをめぐる探求と深化 自分と社会の関わりしろを捉え価値づくりに臨む十三人による探求(令和5年度)」に掲載の記事を再編集して掲載したものです。