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化学的にデザイン可能な細孔空間を持つ多孔質炭素「クノーベル®」の工業製品化(東洋炭素株式会社)

燃料電池の材料など、様々な分野で活用が期待されている多孔質炭素。その誕生のきっかけは、実は偶然の産物だったとか。今回ご紹介するのは、そんな多孔質炭素「クノーベル®」を”どこにもないモノをつくる”社風のもとで開発し、栄えある「第9回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞」を受賞された、東洋炭素株式会社森下さん、田尾さん、塚本さん、初代さん、高田さんです。

東洋炭素株式会社
設立 1947年
資本金 790,000万円
従業員数 連結1640名
業種 高機能カーボン製品の製造、販売、関連する加工事業
所在地 大阪市西淀川区竹島5-7-12
#多孔質炭素 #脱炭素 #やってみなはれ #ものづくり日本大賞

“やってみなはれ”のものづくり  

「炭素材料」は地球上に豊富に存在する持続可能な資源として、古来より人類が慣れ親しんできた身近な材料です。その種類は多岐にわたり、新規材料の研究開発が続々と進められています。

そのような中、東洋炭素株式会社は1974年、世界初の大型等方性高密度黒鉛(※)の工業製品化に成功しました。

(※)等方性黒鉛
 微粒子構造で、静水圧成形法により等方的な構造と特性を持った黒鉛材料

https://www.toyotanso.co.jp/Products/Special_graphite/

今回第9回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞を受賞した多孔質炭素「クノーベル®」も、同社のチャレンジ精神から生み出されたものです。多孔質炭素とは、活性炭に代表される大きな表面積を有する材料ですが、「クノーベル®」は2~50 nmサイズのメソ孔(こう)とメソ孔同士がつながった連通孔(れんつうこう)という、従来のカーボン材料にはない、ナノ空間を組み込んだ新しいカーボン素材です。

当初は酸化物に炭素をコーティングし、新たな機能を付与する開発に挑戦していましたが、ある程度技術確立が進み、「カーボンの素性」を調べるため酸化物を溶出させたところ、想定以上にきれいな穴が形成されました。
そこで同社は、この形状(細孔空間)を生かしてポーラスカーボンとして売り出すことに方向転換し、開発をはじめました。

開発当時は、市場にメソポーラスカーボンという工業材料が存在せず、使い道の見当は付いていませんでしたが、きっと何かに使えるはずという思いでした。

使い道ありきでないと製品化が難しい業界にあって、「やってみなはれ」の精神で、「どこにもないモノをつくる」スタンスは、同社で今も脈々と受け継がれているアイデンティティです。

3次元メソ孔連結の構造モデル

空間をデザインする多孔質炭素「クノーベル®」

「クノーベル®」は炭素材料の中で空白地帯だった2〜50 nmの細孔サイズを、化学反応の条件等を制御することにより自由に設計できるのが特徴で、ジャングルジムのような三次元ネットワークを有します。

ナノレベルの制御技術は、同社の基幹製品である等方性黒鉛で培われた「熱処理技術」と「ナノ鋳型設計技術」の組合せで実現。細孔空間を化学的にデザインすることに成功しました。

また、「多種多様なユーザーに使ってもらいたい」という開発メンバーのこだわりから、材料のポテンシャルを引き出すため、業界では珍しい試薬販売を行いました。販売に当たり、幅広いユーザーに使用してもらえるように商品購入の敷居を低くし、手に取りやすい価格帯で展開を図りました。

この試薬販売により、大学や研究機関が興味を持ち、クノーベル®に関する用途研究論文が多数執筆されています。

脱炭素社会への貢献

「クノーベル®」の活用用途で特に期待されているのが燃料電池です。「触媒粒子(白金)」の土台となる担体に「クノーベル®」を使用することで、触媒寿命を2倍近く押し上げます。すでに触媒メーカーと協業し、白金担持クノーベル®も試薬販売を開始しています。また、全固体電池においても、活用が期待できるといいます。

クリーンエネルギー分野の活用だけではありません。細孔構造による吸着や格納といった想定用途から着想を得て、コロナウイルスやノロウイルスの吸着捕集に使えるのではないかと実証検証もスタートしました。また、一般的な黒色塗料より漆黒になるとの予想外の特徴も発見されました。

さらに、水素エネルギーを安全かつ低コストで貯蔵・運搬する手法としてアンモニアキャリアが検討されていますが、クノーベル®が合成触媒の担体として活用できるのではないかとの学会報告もあります。

未知の可能性を秘めたクノーベル®ですが、燃料電池向けのニーズは今後市場規模が大きくなると予想されており、中長期的には30〜35 %の成長率が期待されています。今後も思わぬ使い道が発見され、技術発展に寄与していく可能性を秘めた材料と言えるでしょう。

未知の可能性を秘めた材料「クノーベル®」

- 受賞者メッセージ -
この度は大変名誉な賞を頂戴しましたことを心より嬉しく思います。今回の受賞は、当社社員・関係者が一丸となって取り組んだ結果です。今後も燃料電池等のエネルギー分野へクノーベル を積極的に展開し、環境負荷低減に貢献していきます。「どこにもないモノをつくる」という創業時からの当社精神にて、炭素材料を通じた脱炭素社会の実現に向けたものづくりに挑戦し続けます。


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。

2023年4月に発表された「KIZASHI vol.22『第9回 ものづくり日本大賞編』」では、2023年1月に決定した第9回ものづくり日本大賞受賞者のうち、近畿ブロックから受賞した10案件の取組をご紹介しています。

今回の受賞者の皆様も、それぞれの技術力を存分に活かしながら、その新規性と革新性、豊かな発想力によって、「ものづくり」を通じた様々な社会課題の解決に貢献されている、そんな姿を特集しました。

https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei22.html