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伝統産業の未来​~技術の応用と承継~(有限会社家具のあづま)

優れた調湿性と防火性から、衣装や財産の保管に江戸時代末期より使われた紀州桐箪笥。
この伝統家具は住環境や生活スタイルの変化で活躍の場が減少しています。
また、伝統産業は後継者不足による事業・技術承継の課題もあります。

その中で柔軟な視点と発想で伝統産業の未来に挑戦するのが1891年創業、有限会社家具のあづま五代目社長の東福太郎さんです。​

有限会社家具のあづま
設立  :1891年​
資本金 :300万円​
従業員数:7名​
業種  :製造業​
所在地 :和歌山県紀の川市名手市場1169-1​
#伝統産業 #デジタルとアナログの融合 #桐の木を有名に #人づくりで始まる未来づくり


伝統産業の未来のために​

桐家具の製造において、木材の目利きから、木取り、漆芸、曲木といった全工程を自分たちで行うのが同社のこだわりです。
「先人が築いた伝統産業の歴史をつなぐことが使命」と語る東さんは、125年もの間、受け継がれた技術と志の伝統を次世代につなぐため、日々挑戦を続けています。

木取りを行う東さん

ライフスタイル用品で​桐を身近に​

​伝統産業の歴史をつなぐため、東氏は桐の知名度向上に目をつけ、生活雑貨を桐で展開する新規事業を始めました。
それがライフスタイルブランド『ME MAMORU』です。
代表的な商品に、「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」で小山薫堂氏選出の匠に選ばれた桐のビア杯『鳳凰』があります。

ビア杯『鳳凰』

また、洗練された技術で薄さ1ミリに統一された桐のロックグラスは、何度転んでも起き上がる起き上がりこぼしになっており、「厳しい桐箪笥業界でも諦めず立ち上がる」という東さんの決意が込められています。
この決意どおりビア杯やロックグラスの発売を機にメディア露出が増え、桐の知名度向上、そして桐業界の発展に寄与しています。​

デジタルとアナログの融合で​技術を次世代につなぐ  ​

​『ME MAMORU』が人気商品となる一方、桐は細かく高度な加工技術が求められるため、手作業では生産数に限界があります。
そこで東氏は、「手作業で作られたものが伝統的工芸品」という固定概念に捉われない発想のもと、機械化できる前処理と手作業で行う仕上げに工程を分けて生産の効率化を図っています。

「今の精度を維持できるのは五十歳が限界。職人の技術は墓場に持っていくものでなく、次世代に残すものである。」と東さんは語ります。​

伝統産業の承継には、技術の伝承、若者の育成が不可欠です。
その手法として【デジタルとアナログの融合】=【理論の伝承と感覚の共有】があげられます。
研ぎ澄まされた技術はデジタル化して理論にすることで何年も残り続けます。
他方、弟子と感覚を共有し、人にしかできないアナログな部分を身につけさせます。

また、独立した弟子に対しては、事業が軌道に乗るまで原材料の供給支援など自らの身を切る勢いでサポートし、敢えてライバルを増やすことで桐箪笥業界全体を盛り上げています
そこに伝統産業全体を引っ張ろうとする東さんの気概が感じられます。​

現代の価値観に寄り添った​新たな桐箪笥『SAMA』​

『ME MAMORU』を展開することで、これまで東氏は桐を現代人に身近なものにしようと奔走してきました。
「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」をきっかけにメディアにも多数取り上げられ、桐の知名度が向上してきた今、さらなる挑戦として製作しているのが桐箪笥ブランド『SAMA』です。

オンライン上で自分好みの桐箪笥をシミュレーションして購入できるこの商品は、伝統的な桐箪笥とは一線を画す現代に即した桐箪笥に仕上がります。
ライフスタイルが多様化された現代では人々の価値観も多様化されています。

『SAMA』​

『SAMA』は、ファッションを生き様とするならば、その多様な生き様に寄り添う収納家具が必要というコンセプトから生まれており、まさに時代のニーズに合わせて進化した東氏の集大成ともいえる作品です。

東さんは「今までと同じ方法で先代を超えるなんておこがましい」と語ります。
伝統ある業界で、常識にとらわれず時代の変化に適応する姿勢が同社の最大の強みです。
こうした姿勢をもつ家具のあづまは桐箪笥業界のみならず、伝統産業の未来を創造する存在になりうるでしょう。 ​


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。