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お茶の味は茶葉だけでなく、つくる人の情熱で決まる(細井農園 細井堅太さん)

細井農園は、宇治茶の主な生産地である京都の和束町を代表する茶農家です。
様々な時代や環境の変化のなかで120年以上にわたり和束茶の伝統を守りながらも、お茶の魅力を発信し続ける5代目園主の細井堅太さんにお話を伺いました。

細井農園
創業  :1900年
従業員数:4名
業種  :茶業
所在地 :京都府相楽郡和束町中二本一9−1
#和束茶 #手もみ茶 #全国手もみ製茶技術競技大会 #最優秀賞


宇治茶の郷『和束茶』

和束町は京都府南部の標高が高い山間部に位置し、町の中心部には和束川が流れ、豊かな森林が広がっています。
昼と夜の温度差が大きく、冷涼な空気が深い霧をもたらし、この霧がやさしく茶葉を包み、遮光を助け、美味しい茶葉を育てます。

このような、和束町の気候の特徴を生かしてできた、香り高く、旨味や甘味が強いお茶が、和束茶になります。
和束町では、古くからこの気象的・土壌的に恵まれた環境を利用して和束茶を栽培しています。

和束茶の栽培は鎌倉時代から始まったとも言われており、周囲を山に囲まれた和束町と他地域を繋ぐ象徴として、長い歴史を誇ります。
市場が変化し、担い手が減っていくなかでも、茶農家のお茶にかける情熱と絶え間ない創意工夫によって、今日まで歴史を紡いできたともいえます。
現在では、宇治茶の約4割が和束町で生産されています。

細井農園の茶畑の風景(夏)

お茶愛あふれる園主細井さんがつくる、こだわりのお茶

細井さんは、小学3年生の授業で昔はお茶を手もみで作っていたことを知り、地場産業のお茶(手もみ製法)に興味をもちました。
大学在学中に家業を継ぐと決心し、卒業後静岡県で特に茶の製造に関する学びを進め、全国から集まる茶農家のお茶に対する情熱に触れるとともに、家業として先代が紡いできた和束茶を一人でも多くの方に飲んで味わってもらいたいという気持ちが強まりました。

その後、24歳という若さで5代目となり2018年と2023年に「全国手もみ製茶技術競技大会」で最優秀賞(日本一)も取られた、お茶をこよなく愛する方です。

手もみ茶とはお茶作りの原点とも言われ、人の手だけで時間をかけて揉み上げる極上のお茶です。
現在は機械化が進み、手もみ茶は少なくなってきていますが、人の手で作られた優しい味がすることが特徴です。

極上の手もみ茶

細井農園では現在、茶畑の栽培から製茶までこだわった煎茶や抹茶、玉露やほうじ茶など、様々な種類のお茶を栽培しています。

例えば、細井農園の煎茶を紹介します。
お茶の起源である在来種の茶葉を使っており、はじめのこっくりとした旨みがある飲み口から、煎を重ねるほどに山のお茶の力強さを感じることができます。

次に、細井農園の抹茶を紹介します。
月の満ち欠けまで考えて年間の肥料を施していることから、旨みにあふれ、マイルドで飲みやすいものになっています。
このように細井農園では、園主の様々な工夫が施された多種多様なお茶が販売されています。

雪に包まれたお茶と急須

園主細井さんの考える『お茶の魅力』

お茶の魅力について、細井さんは「お茶にはそれぞれいろいろな魅力がありますが、自然環境や製造過程・管理方法などによって、味や香りが変化するところが好きです。手間をかければかけただけの価値がでます。思ったようにできる時もあれば、できない時もありますが、それが面白いです。」と語ります。

また、細井農園では取引先のお茶屋さんから欲しいお茶のリクエストを受けることがあります。
その際には、お茶屋さんと話し合いながら、希望のお茶を作るための打ち合わせを重ねます。
「このプロセスは大きな責任を伴い、思ったように進まないこともありますが、それが楽しいです。」と細井さんは話します。

そんな細井さんは、大好きなお茶の魅力を広めるために様々な活動に参加されています。

和束茶の魅力を広めるための伝統の保存と振興

細井さんは現在、和束茶手揉技術保存会の会長を務められています。
手もみ製茶は、生産者の減少とともに受け継ぐ人も減少し、現在では機械による製茶が主流となっています。

そんな中、細井さんは2018年に続いて、2023年に再度手もみの製茶技術を競う全国大会である、第27回全国手もみ製茶技術競技大会に保存会のメンバーとして参加し、最優秀賞を受賞しました。
細井さんは「これを機に、お茶産業はもちろん、和束茶が広まるきっかけになれば」と語っています。

園主の細井堅太さん(右)

また、手もみ製茶について『手もみは基礎であり、手もみの技術があってこそ、機械の製造で細かな調整をすることができます。機械が同じでも、操作する人の持つ技術によって味も香りも変わってきます。』と細井さんは語ります。
つまり、手もみの技術があってこそ機械での製造でも美味しいお茶をつくることができるので、機械でも調整する人の技術次第でお茶の味は変わるのです。

他にも、東京2020オリンピックでは聖火ランナーに『綾鷹』代表として選ばれるなど、お茶の栽培・製造に加えて、お茶の魅力を伝える活動にも幅広く取り組まれています。

また、インバウンド需要への対応にも積極的に取り組んでいます。
細井農園では、他の和束町のお茶農家と協力して、外国人観光客への手もみ体験の指導を行っています。
また、海外からのお茶の注文も受け付けており、その際には他の農園と協力して対応をしています。

和束町はインバウンド受け入れ先進地域として知られており、細井農園もその一翼を担っています。
細井さんは、和束町の取り組みや課題についてセミナーなどで現場の視点から話すなど、和束町のお茶文化の発展に貢献しています。

手もみ体験の様子

楽しいを伝えるということとブランドの維持

こうした活動の一方で、近年、お茶農家の減少が問題となっています。それに対して細井さんは「『楽しいを伝えること』が人手不足の解消につながる一つの方法ではないか」と話します。

細井農園の経営方針は「農業は楽しい生業であることを実践し、お茶ってすごく楽しいんだ」をより多くの人に伝えることです。
これは、細井さんが自身の決断としてお茶農家を継いだ時の思いを言葉にしたものになります。

細井さんは「お茶をつくり、味わうことの楽しさを体験したことがお茶農家を継いだ大きな理由だ。」と話します。
一般的には農業は大変というイメージがありますが、お茶の良さを実感することで、そういったマイナスなイメージを超えた多くの魅力を感じることができます。

その一方で、ブランドの価値を伝え続け、維持することが大きな課題となっています。
「楽しいという気持ちだけではブランドの価値を後世に伝えることはできず、真剣にお茶に向き合わなければむしろ価値の低下を招く可能性もある。」と細井さんは話します。
ブランド価値を維持しながら楽しさを伝えることは容易ではありませんが、細井さんはお茶の魅力を伝えるために地道に様々な活動をされています。

「まずはお茶の良さを知ってもらいたい。そして実際に様々な地域のお茶を飲んでもらいたい。飲んでいくとお気に入りのお茶に自然とたどりつく。お茶をつくること・お茶をいれること・お茶を飲むこと・お茶を語り合うことの全ての楽しさを多くの人に伝えたい。」と熱く語る細井さんの挑戦はこれからも続いていきます。


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

近畿経済産業局では、年間1,000件以上にも及ぶ企業・団体を訪問し、企業の変革のための挑戦を捉え、2025・2030年の先、将来を見据えた変化の「兆」として紹介するために、「KIZASHI  [関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆(きざし)]」として、作成、公表しています。

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