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木と人を育て、日本の未来をつくる​(株式会社中川)

木を育て、収穫する「林業」という仕事。
環境を守り育て持続可能な社会を目指すためには、木材資源という活用だけでなく、森林がそこにあることでもたらされる長期的な恩恵も考えて行く必要があります。

今回、ご紹介する株式会社中川は「木を切らない」林業の会社として、伐採した山に木を植える「新しい林業=育林」に取り組んでいます。
秘められた林業、そして携わる人への想いについて、創業者兼従業員の中川 雅也さんにお話を伺いました。

株式会社中川
設立  :2016年​
資本金 :900万円​
従業員数:27名(正社員のみ)​
業種  :林業​
所在地 :和歌山県田辺市文里2丁目32−7​
#木を伐らない林業 #次世代の起業家育成 #自然との共生 #人づくりで始まる未来づくり


木を伐らない新しい林業​「育林」

​​株式会社中川の主なお客様である山林の所有者は、自身の山林を管理するにあたって、災害や獣害といった課題に直面しています。
製品である木を切り続け、将来の投資である植栽を後回しにした結果、森林がもつ保水力を減らしてしまったり、そこに住む動物達による食害や剥皮など森林そのものに対する被害や、人里に下りてきて畑を荒らしてしまうということも増えています。

主要な野生鳥獣による森林被害面積(2022_林野庁)

そんな課題を解決しながら次世代に山を残していくために、同社は獣類の餌となるどんぐりを拾い、苗木を育て、広葉樹を植える育林事業を通して、自然との共生を目指しています。​

また、特に山林地域は過疎地域が多く、そこで育った子どもたちが将来、地元に帰ってきてほしいというニーズに応えるため、小・中学校向けの育林体験プログラムといった教育事業から、育林事業のノウハウを活かしたコンサルティングなど様々な領域で事業を進めています。

このような「育林事業」を通じた森林再生のサイクルそのものが高く評価され、2020年にはグッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会)も受賞されています。

とことんやる働き方改革で人を育てる

そんな中川さんが同社を創業したきっかけの一つが、前職の自身の経験。
働くことに注力しすぎて、自分の子どもとの時間がほぼとれなかったことが原体験でした。
このような働き方が果たして良いのだろうか、自問した中川さんは、従業員が家族と一緒に過ごす時間を確保できる会社を地元和歌山で創業することにしました。それが株式会社中川なのです。

「育林は育人」を社訓に、働きやすい環境づくりと従業員の育成は両輪という考えのもと、独自の改革を行っています。​

ハード面では、労働負担を軽減すべく重量25キロまで運搬可能なドローンを自社開発。女性や​初心者といったこれまで林業に携われなかった層にまで雇用を広げています。また災害時の救援物資運搬の用途等でも活用ししていますが、実は同社で特許は取っていません。
同業種、他業種問わず自由に同社のドローンを使ってもらうことで、ドローンを入り口に、同社の認知、そして同社が取り組む林業の考え方から林業の市場の拡大を期待しているからです。  ​

同社が開発した林業資材運搬型ドローン「いたきそ」(株式会社中川

ソフト面では、例えば、中川さんは創業者兼従業員という珍しい役職にいること。「創業時の思いや熱量を持った人間が、組織のトップではなくミドルにいることで様々な役職や年代の方の意見を汲み取りやすくしている」と中川さんは語ります。

中川さんの珍しい役職(株式会社中川

また、正社員の在籍数を30名までと制限していることも特徴です。これについても中川さんは、「学校って大体1クラス30人くらいですよね。それって1人で見ることが出来る最大数だと思うんです。そこから着想を得て(30名制限にすることで)適度に従業員と関わることができる仕組みにしています。」と話してくれました。

その他、1日6時間のフレックスタイム制度や副業制度など、社員の働きやすさを追求した施策は広範にわたります。​

さらに、主体的に育林に関わる人を増やしていくため、副業からの起業を支援する制度を整えています。起業に必要な経営者教育についても、実際に同社の決算書を教材として行うほどです。
そのような環境で育った従業員が、全国各地でのれん分けをするように中川流の林業をベースに起業しています。同社の30名という在籍数制限、そして副業からの起業支援という従業員を応援する仕組みが、全国で新たな育林業関係者を生み出す機能を果たしていると言えます。

広がる株式会社中川の卒業生(9県7社)​

加えて、起業時には支援者を紹介したり、軌道に乗るまで給料を支給するなど、会社を離れても支えられる環境があるようです。​

次世代を育て、全国に新しい林業を​

現在、株式会社中川の精神を受け継いで起業した会社は9県7社に広がっています。国土の2/3が森林である日本において、育林業は地域の雇用を創出し、自然との共生につながります。ゆくゆくは47都道府県へ進出予定だといいます。
そうした中川さんの活動に共感する人々は年々増えてきており、大手企業やスタートアップ等との連携やスポンサーのほか、企業の社員研修先として「育林」活動が採用されるほどになっています。​

「ただ、今起業家として活躍できるのも家族の支えの賜」と中川さんは言います。これまで起業家としての自分を支えてくれた恩返しのためにも、中川さんは将来、家族とともに各地を移住しながら弟子たちが起業した会社で働く、新たな林業だからこそできるノマドワーカーとしての生き方を目指したいそうです。​

そんな素敵な同社の採用基準は、「何のために稼ぎたいか?」、昇進基準は「自分がいま満たされているか?」をはじめとした問いに適切に答えられるかどうか。

その根底には起業時から中川さんが想っている「自分が幸せでなければ、他人を幸せにできない」という考え方だからこそ。

当たり前に聞こえるかもしれませんが、育林を通じて、その想いに共感し、その想いを受け継ぎ、全国に広がる次世代のプレイヤーそのものに、同社の強みがある、とお話を聞きながら感じました。​


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。


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