バーチャルわかものハローワーク~若者に働くきっかけを~(厚生労働省大阪労働局×クラスター株式会社)
XRとは、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といった、現実の物理空間と仮想空間を融合させて、新たな体験を創造する先端技術の総称です。
近年では、社会課題や地域課題を保有する企業等がXRコンテンツ制作企業とタッグを組み、試行錯誤しながらも解決に導こうとする動きが見られます。
本記事では、日本初のメタバース上のハローワークを開設し、若者の就業支援に寄り添う取組を紹介します。
花火が上がる、メタバース上のハローワーク
エントランスに入ると巨大な招き猫が出迎えてくれました。
野外音楽堂のようなステージには花火が打ち上がり、イベント開催後には紙吹雪も舞います。
一見したところでは公共職業安定所=ハローワークだと分からないかもしれません。
ここは、日本初となるメタバース上のハローワーク「バーチャルわかものハローワーク」です。
若者に響く就職支援を
ハローワークは、厚生労働省が全国500カ所以上に設置する雇用に関する総合的な支援機関です。
就職を目指す人々に対して、職業紹介・就職活動に役立つセミナー・職業訓練のあっせんなどを行っています。
近年、課題となっているのは、10代後半~30代前半の完全失業率の高止まりです。
大阪府内のハローワークを管轄する大阪労働局では、そうした若年層に響く支援の方法を模索していました。
そんな中、当時、FacebookのMetaへの社名変更をきっかけに、世界的に注目を集めていたメタバースに注目。デジタル空間の活用を思いつきました。
近年の就職活動はホームページでの情報収集やSNSの活用などネットが主戦場です。
他方、就職を目指す人々は、必ずしも自分ひとりで就職活動を行える人ばかりではありません。
何らかの理由で就職活動につまづいたり、それ以前に引きこもりがちであったり、働くことにネガティブになっていたりする人に、メタバースを活用することで就職活動の一歩を踏み出すきっかけを作りたいと思いました。
この構想を、大阪労働局から厚生労働省に新規事業として提案したところ、モデル的な取組として承認が下りました。
しかし、ここから手探りの作業が始まりました。
まず、メタバースのハローワークを発注するための仕様書の前例がありません。大阪労働局の職員がメタバースの技術に明るい訳でもありません。
メタバースについて情報を集め、メタバース空間を構築、運営するプラットフォーマーへ片っ端からヒアリングし、クラスター株式会社にたどり着きました。
就活のプラットフォームに適したメタバース空間の検討
クラスター社は、総ダウンロード数百万回以上、累計総動員数は3,500万人と、国産のメタバースプラットフォーム内では圧倒的なユーザー数を抱えています。
ボイスチャット・エモート(リアクション)・メッセージなど、コミュニケーションのための機能が豊富にあることから、コミュニケーションを楽しむユーザーが多いという特徴もあります。
また、同社のプラットフォームは保守運用やサーバーなどのランニングコストが不要なことも、限られた予算で運用する行政にとっては魅力でした。
バーチャルわかものハローワークの開設にあたっては、数多くの企業とのコラボの実績も踏まえて、バーチャル上での花火や紙吹雪の演出など遊び心ある提案もしてくれました。
アバターで気軽に参加できる仕組み作り
構想から2年、2024年2月にオープンしたバーチャルわかものハローワークは、概ね35歳未満の就職希望者を対象とする大阪わかものハローワークが運営しています。
半年以上かけて職員アバターとしての練習を行った相談員は、声掛けを行うタイミングや、場合によっては声をかけずにリアクションだけをするなど、絶妙なバランスでの対応を心掛けています。
利用者も匿名のままアバターとしての参加が可能であり、リアルな場でのコミュニケーションが苦手な人も気軽に試すことができます。
求人情報や職業訓練など就活に役立つ情報へのアクセスが容易であり、職員アバターが平日11時から17時30分まで常駐しています。
詳しく相談したい場合は、プライベート空間に移動することもできます。
企業説明会やセミナーを開催するイベントは、リラックスした夜の野外音楽堂をイメージしました。
星空の下、企業も求職者もアバターの姿で参加します。
「バーチャルがきっかけで、リアルのハローワークでの求職登録に進んだ参加者が出たのは嬉しかった。各地の労働局との連携も検討している。」と大阪労働局担当者は語ります。
働きづらさに寄り添う支援を
今後は「働きづらさ」を感じる人のため、バーチャル空間でアバターを操作して働く求人の広がりに期待しています。
「若者のセーフティネットになりたい」。
支援が必要な人たちに届くようにと、大阪労働局発の取組は全国に広がっていくでしょう。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
「KIZASHI」
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html