現場をひらいて見えた組紐の可能性 - 有限会社昇苑くみひも -(シリーズ:オープンファクトリー #8)
関西各地でオープンファクトリーを実施している企業様へのインタビューを通じ、どんな想いを込め取組を始めたのか、取組により企業や社員にどのような変化があったのか、オープンファクトリーの魅力を紹介するシリーズ:オープンファクトリー(バックナンバーはこちら↓)
第8回は、有限会社昇苑くみひもさんをご紹介します。ショップや工房をご案内いただきながらインタビューに協力いただきました。
カタチを変え時代を超える組紐文化
有限会社昇苑くみひもは1948年宇治市にて帯締めや髪飾りを作る工房として創業しました。
手作業でひもを組む「手組」の技術をベースに、「製紐機」を用いた「機械組」による効率化も図りながら職人技が光る組紐商品を展開。糸の染色から紐の生産、さらに加工まで大部分の工程を自社で完結し、顧客のニーズに合わせた対応ができることも同社の強みです。
組紐は、複数の糸を交差させて作る紐で、かつては武士の武具や甲冑、着物の装飾、巻物をくくるために使われ、人々の生活に欠かせない存在として重宝されてきました。
しかし、時代の変化とともに武具や着物をまとう人が減少。組紐業界は苦境に立たされます。
同社も時代の煽りを受けますが、長年培ってきた紐を組む技術を昇華。従来の和装用途に加え、ジュエリーやインテリア、アパレル、神社仏閣、医療関係など、伝統工芸を現代にあった身近な製品へと生まれ変わらせ、海外への販路拡大も実現しています。
また、同社は伝統ある産業を次世代につなぐ担い手支援・育成にも熱心に取り組んでおり、伝統工芸士認定に向けた社内勉強会の開催や、新たな職人の発掘も兼ねた内職の育成、組み紐教室の開催など街全体で組紐産業の底上げを目指しています。
この強固なネットワークによって、同社が大切にしている「新しいご依頼をできませんと断るのではなく、何か方法があるか一度考えてみる」という理念のもと、顧客から寄せられる様々な要望に沿った組紐を提案することが可能になっています。
来場者の声が取り組みへの原動力に
同社では、伝統工芸品である組紐を知ってもらうことはもちろんのこと、組紐の新たな形を探るために現場を開くオープンファクトリーを実施しています。
従来より、取引先等に対して生産現場の雰囲気や対応力等を把握してもらうことを目的に、現場を公開していた同社。
組紐を身近に感じてもらうために、創業家の自宅をショップにリニューアルして運営を行っていく中で、「こんな商品はありませんか?」など来店者からの声を直接聞くことが増え、新たな組紐の可能性を感じるようになったそうです。
もし工場を一般の人が見た際にはどんな話が聞けるのだろう、どんなところに興味を持つのだろうという期待から、京都で地域一体型オープンファクトリー(DESIGN WEEK KYOTO)の開催を検討していたCOS KYOTO北林氏との出会いもあり、オープンファクトリーイベントの実施へ踏み出しました。
オープンファクトリーでは、製品を販売している店舗内で同社の歴史や組紐産業の推移について聞くだけでなく、実際の組紐製造の現場を見ることができます。
組紐を手で組む手組の工房では、伝統工芸士に認定された職人技術を間近で見ることができるだけでなく、角台や丸台などの様々な組台を見学することができます。
また機械組の工房では、一見すると同じ動作をしている数十台の製紐機が、それぞれ異なる動きで複数の種類の組紐を組んでいる様子を見ることができます。その姿はまさに圧巻です。
オープンファクトリーは新たなビジネスを生み出す機会
地域単位で実施する「地域一体型オープンファクトリー」に参加したことで、参画している企業同士のネットワークが構築され、新たな事業に発展したことがオープンファクトリーに参加した1番の利点だと、インタビューに協力いただいた八田さんは言います。
組織全体で組紐の未来を考えたい
イベントとしての開催は現在行っていないものの、その後もオープンファクトリーを継続する同社。
と八田さん。
社員一丸となり、さらなる組紐の可能性を探る同社の発展に今後も注目していきたいです。
オープンファクトリーとは
オープンファクトリーとは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取組です。
取組を通じて新たな接点やコミュニケーションが生まれるだけでなく、社員の成長やモチベーションにもプラスの影響を与えるという点で、現在注目を浴びています。
近年では、企業単独の取組はもちろん、ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など産業が集積している地域を中心に、地域内の企業等が面として集まり、地域を一体的に見せていく「地域一体型オープンファクトリー」も全国で広がりを見せています。