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VRで患者の生活を取り戻す~メタバース手術~(亀岡市立病院×Holoeyes株式会社)

XRとは、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といった、現実の物理空間と仮想空間を融合させて、新たな体験を創造する先端技術の総称です。

近年では、社会課題や地域課題を保有する企業等がXRコンテンツ制作企業とタッグを組み、試行錯誤しながらも解決に導こうとする動きが見られます。

本記事では、医師が開発し実践するVR手術についてご紹介します。


全国から患者が集まる公立病院

京都の玄関口、京都駅から電車で20分の亀岡市は、豊かな自然と都市圏に隣接するアクセスから「トカイナカ」を掲げるベッドタウンです。
そんな亀岡市の公立病院には、全国から患者が集まる脊椎(せきつい)センターがあります。
そこですべての手術の執刀を行うのは医師の成田渉さんです。
本記事では、脊椎センター設立の経緯と、その背景にある成田さんの地域医療に対する思いを紐解きます。

成田渉さん

へき地医療で得た「自ら考え、患者から学ぶ」姿勢

成田さんは自治医大を卒業後、へき地医療に8年間携わりました。
多くの医師は大学卒業後、上司の医師から手取り足取り教わりながら学んでいきますが、成田さんは一人で対応せざるを得ませんでした。
この経験によって身に着いた「自分で考え、患者からも学ぶ」という姿勢を、成田さんは今でも大切にしています。

亀岡市は京都府最大の農地を有しているという地域柄もあり、脊椎疾患を患っている患者が多くいます。
脊椎疾患は患者の生活の質を大きく左右するにもかかわらず、手術のリスクや難易度が高いため、対応できる医師が非常に少ない。
そうした状況にジレンマを感じた成田さんは、脊椎脊髄(せきついせきずい)病の専門家を目指すようになりました。

積極的に高度な手術に取り組み続けてきた結果、2018年、亀岡市立病院での脊椎センター立ち上げに伴い、白羽の矢が立ったのが優れた技術と経験を有していた成田さんでした。
このセンターは、現在では地域住民のみならず遠方からも患者が多く来院する病院の大きな柱となりました。

亀岡市立病院

亀岡市立病院
設立  :2004年
業種  :病院
所在地 :京都府亀岡市篠町篠野田1番地1
#VR手術 #ITと医療の融合 #工学医師

医療とVRが出会う

成田さんは「日本初の技術を世界へ!」のビジョンのもと、VR手術の開発に取り組んでいます。
子供のときからパソコンを触り、エンジニアを目指していたこともあった成田さんが、脊椎手術に役立つのではないかと注目したのがVRでした。

従来手術のシミュレーションにはCGを使っていましたが、VRを使った方が立体的に把握できるのではないかと考えていました。
医療において、臓器を立体的に見ることは、特に手術にとって重要です。

そんな中、学会でVR手術のパイオニアである帝京大学 杉本真樹医師と出会い、意気投合。
杉本さんはのちに医療VRのスタートアップであるHoloeyes(ホロアイズ)株式会社を創業しました。

Holoeyes株式会社
設立  :2016年
資本金 :283百万円
従業員数:31名(2024年1月末時点)
業種  :医療用画像処理ソフトウエアの開発・販売
所在地 :東京都港区南青山2-17-3 モーリンビル303
#VR手術 #ITと医療の融合 #工学医師

Holoeyes株式会社の主力製品のひとつである「Holoeyes MD」は、VR端末を使って三次元のデータが今そこにあるかのように認知できるシステムです。
手術は共同作業なので、現場にいる人たちが同じものを見る必要がありますが、VRのデータの利点は、その場にいる人が複数人で同じデータを見ることができる点です。

同じデータを3Dで共有することができる

今までもパソコンのモニタで見ることができましたが、モニタでは平面なので奥行を正しく把握できませんでした。
VRならば立体で、かつ、覗き込むことができます。
覗き込んで奥が確認できれば、奥の血管を傷つけたり、除去すべき箇所を取り残したりということが避けられます。

健康保険で認められた医療機器としての認可も下りました。
成田さんは同社創業から開発に関わり、現在は「エバンジェリスト(伝道師)」として、開発のみならず、活用し実践することで、同社の活動を広める役割を担っています。

患者を救う挑戦

公立病院の医師は「公務員」であるため、企業に属して研究開発を行うことに制約が伴います。
そのため、成田さんは安定したポジションを捨て、フリーランス外科医となり、亀岡市立病院で連日の手術を行いながら、自身の経験も踏まえ地域医療に貢献したいとの思いで、各地での手術指導やコンサルティングも行う多忙な日々を送ります。

自分は雑草。なんでもする。」と成田さんは笑います。
心身のタフさに多彩な才能を纏い、患者を救う挑戦は続きます。


KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]

経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。

「KIZASHI」
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jireitop.html