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三田理化工業の挑戦と未来:医療の安全を支えるニッチトップメーカーの75年の歩みと新たな展望

大阪に本社を構える三田理化工業株式会社は、高度な洗浄滅菌技術で医療の安全・安心を支えるニッチトップメーカーです。創業は1949年で、2024年で75周年を迎える同社は市場のニーズを常に捉え、これに応え続ける中小企業です。自社既存事業と競合する新事業に挑戦し、現在では赤ちゃんの命を支える小児病棟向けの『調乳トータルシステム』、病院の現場を支えている『洗浄滅菌済みガラス製バイアル(注射剤などの保管や投与に使用される容器)』で国内トップシェアを誇る企業となりました。2023年に30代の千種純さんが社長のバトンを受け継ぎ、今もなお新たな挑戦を続ける同社の魅力と、これまでとこれからについてお話を伺いました。

三田理化工業株式会社
創業  :1949年
資本金 :1,000万円
従業員数:42名
事業内容:病院向け医療機器・理化学機器・製剤機器の設計・製造・販売・アフターメンテナンス
所在地 :大阪府大阪市北区大淀中2丁目8番2号
#アトツギ #RACOON #三田万能洗浄機 #調乳トータルシステム   #洗浄滅菌済みガラス製バイヤル


事業の大転換:ガラス商社から洗浄装置メーカーへ

1950年代、三田理化工業はガラス容器などの理化学機器商社から洗浄機・乾燥機などの理化学機器メーカーへの大事業転換を遂げました。既存事業とは競合する「ガラス容器を洗って再利用したい」というニーズに応える大きな挑戦でした。当時は結核検査用の痰や尿を採る容器もガラス製であり、劣悪な作業環境を改善し、感染防止するために洗浄作業の改善ニーズが大きかったことから、当該ニーズに果敢に挑戦し、製品化した『三田万能洗浄機』はオンリーワンの商品として大ヒット、70年経た現在でもまだ引き合いがあるロングヒット製品となりました。

当初開発した『三田万能洗浄機』

調乳トータルシステム開発:安心・安全なミルクを提供するための挑戦

『三田万能洗浄機』は、大学病院をはじめ、多くのお客様に利用されていました。しかし、創業者の千種喜作氏は、そのことに満足せず、顧客の「本当のニーズ」に対応するため、更に市場ニーズを深掘りします。全国に小児専門病院やNICU(新生児集中治療室)が設置され始めた1970年代当時、小児用のミルクは、調乳から哺乳瓶の洗浄、乾燥まで全工程を看護師が手作業で、しかも1日に8度も繰り返すことで提供されていました。創業者は「哺乳瓶を洗いたいのではない。安心・安全なミルクを提供したいのだ」との「本当のニーズ」を発掘し、『調乳トータルシステム』を開発することを決意します。

同社は、哺乳瓶の洗浄、滅菌から調乳、ミルクの分注、赤ちゃんへの提供まで、全てに対応する『調乳トータルシステム』を開発しました。これにより、病院向け調乳機器という新たな市場を作り上げます。当時日本で2番目に開設された小児専門病院である兵庫県立こども病院に納入した結果、小児病棟への一斉導入が進み、大ヒットしました。現在に至るまで24時間メンテナンスに対応可能な体制を維持し、看護師、栄養士の強い味方として現場を支え、小児病棟に入院している赤ちゃんの命を守り続けています。

調乳トータルシステム:哺乳瓶の洗浄・乾燥、調乳、分注が可能。

社員全員で徹底した「品質管理」:洗浄滅菌バイアルへの挑戦

三田万能洗浄機をはじめとする数々の洗浄機・乾燥機は、病院での薬液容器洗浄に用いられてきましたが、1980年代に大規模病院にて更なる省人化が必要となり、ディスポーザブル(単回使用)の洗浄滅菌済み容器を開発し、創業者が立ち上げたのが『消耗品事業』でした。

病院内で使用する薬液容器はそれまで、医療従事者が、三田万能洗浄機等を用いて洗浄されてきました。当然、洗浄過程には病院側のマンパワーを要しますが、洗浄滅菌済みのバイアルを消耗品として購入することで、省人化に貢献できます。

当該洗浄滅菌品を生産するためには高度な品質管理が求められます。2011年に千種康一さん(当時2代目社長)が、注射剤用無菌製剤容器の洗浄・滅菌を行うことができるクリーンルームを備えた新たに開発センターを建設しました。このセンターの従業員には、日々、洗浄水の管理、クリーンルームの汚染管理、滅菌機の管理、毎日の作業記録などを高いモラルを維持して実施する必要があります。「見えないものを洗う」ために高いモラルを教育するとともに、高度な品質管理に基づく検査を徹底しました。その結果、取引先にて100本のバイアル中異物の付着本数を確認したところ、他社では10本以上付着していたのに、三田理化工業製バイアルの付着本数は0本ということでした。たとえロット数が少なくとも、高い品質の製品を作り続ける仕組みを構築した点は、同社がこうした挑戦によって磨き上げた新たな強みとなっています。

洗浄滅菌バイアル(ステリバイアル)

三田理化工業の危機:徹底した業務改革で乗り越える

ここまで述べた三田理化工業の取組は、顧客である医療現場にとっては心強いものです。一方で従業員にとっては、24時間体制でのメンテナンス、短納期の厳守、極めて高度な品質管理など、負担の重さが課題となっていました。3代目社長である千種純さんが入社した2017年頃は1年間で従業員の4人に1人が退職する状況でした。当時、営業担当の1人であった3代目は、強い危機意識を持ち、「業務改革しなければ、待っているのは緩やかな死だ」と徹底的な業務改革を通じた職場環境の改善に乗り出します。

まず、サービス部門にテコ入れし、ビジネス構造を大きく変えました。これまでは従業員が緊急修理に昼夜・週末問わず全国を飛び回っていましたが、蓄積したデータを元に故障が発生する可能性が高い顧客に対して事前に定期点検を案内し、点検比率が2倍以上に増えた結果、土日の緊急修理対応は急減しました。作業負荷が平準化され、現場の負担が軽減されただけでなく、顧客の満足度も向上しリピート受注に繋がりました。

また、営業部門は各営業担当者が自社の製造工程を理解し、各工程や外注作業に要する概算の日数を把握できるまでにスキルアップしたことにより、営業先に対して現時点での発注に伴う納品時期を明確かつ論理的に説明が可能となり、無理なスケジュールを前提とした受注を防ぐことができるようになりました。併せてこれまで外注先の板金加工業者は1社で、受注残が多いタイミングでは納入遅延のリスクがありました。複数の業者を活用することで納期遅延リスクが減少し、計画的な納期管理を実現し、生産台数が増え、売上が増加しました。

上記の取組などにより、例年3月が最繁忙期ですが、2024年には勤務間インターバル制度(終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組み)を導入した上でなおゼロ残業を達成できました。

他にも、業務を減らすのではなく、手間を減らすという発想で、ローコードツール(プログラミングの専門知識がなくてもアプリケーションやシステムを開発できるようにするための開発プラットフォーム)を使って文書管理、クレーム管理とフィードバックなどのアプリを開発しました。ISO(国際標準化機構)の監査時にも非常に高く評価され、2023年には第1回日本ノーコード大賞特別賞を受賞されています。これらを支えるのは、20代から30代の実務効率化をバリバリこなしている若手社員になります。但し、3代目が突っ走ろうとした時に諭してくれるベテラン組の存在も重要です。

若手とベテラン組のバランスを取りながら、改善提案制度を仕組み化したことで、現在では社員から新たなアイデアが多数出るようになってきました。デジタル化によって手間が減った業務に対して、より効率的な方法を模索する意欲が高まり、組織の活気が生まれています。

本社工場で勤務する技術社員:さらなる効率化に向けて活発な議論が行われています

若くして社長就任を決断:三田理化工業への想い

千種純さんは35歳で3代目社長に就任しています。若くしてその決断に至ったのは義父である現会長(2代目社長)からの信頼と、三田理化工業が好きだという気持ちでした。「現場にて業務を担う中で、このニッチで面白いビジネスをさらに世間に広めたいという覚悟が固まり、社長就任に特に悩みはなかった」と3代目は語ります。

3代目社長である千種純さんと会長(2代目社長)の千種康一さん

新しい価値を生み出していく社内の取組

同社はお客様のニーズからビジネスを創造し、現在はその作り上げたビジネスの付加価値を高める、改善していく段階にあります。2024年1月には、さらに新しいものを生み出せる組織にするために『三田理化バリュー』を策定しました。三田理化工業の素晴らしさはたくさんありますが、一番は社員同士の関係がとても良好でコミュニケーションが取りやすい環境だと考えます。

さらに組織を素晴らしくするため、部署間のコミュニケーションが増える取組や、他社に面白いと思ってもらえるような取組を実践しています。例えばゆるキャラ作りや、職場体験のような行事になります。3代目は、「バリューを話すだけでなく、実際にバリューに沿って行動することで社員に気づいてもらい、『三田理化バリュー』を浸透させることができる」とお話しされていました。

コーポレートキャラクター「みった」と「りっか」
『三田理化バリュー』

また、社内から新商品のアイデアを出す仕組み『商品のタネ制度』を構築し、タネを形にする責任部署『商品企画室』を創設しました。今、そこから生まれた商品を2つ、開発中でありますが、社内からどんどんアイデアが出てきています。

今後の展望:さらなるニッチトップたる地位の確立とグローバル展開への想い

同社製品のシェアはトータルで70%とニッチトップの地位にありますが、売上の90%以上を国内市場に依存しています。しかし、少子化の進展で、市場は人口に合わせて縮小していく可能性があります。そこで、今後の展望として以下の2つの方向性を掲げています。

1つ目はさらなる国内市場の拡大に向けた新商品開発です。国内市場でのシェアをさらに拡大するために、残りの30%のお客様にも役立つ商品を開発することを目指します。

2つ目は、海外市場への挑戦を検討しています。日本は世界で最も新生児死亡率が低い国であり、同社は50年以上にわたり小児栄養を支えてきました。この経験を他の国の赤ちゃんにも活かせないかと考え、海外市場への挑戦を目指します。但し、単純に現在の機器を持ち込むのではなく、海外にも適用できる新製品を開発することが必要になります。

これらの展望を実現するために、市場を把握し、その変化に対応しながら、より多くのお客様に価値を提供することで、持続的な成長の実現を目指していきます。

『三田理化バリュー』の1つ「ありがとうと笑いがあふれるチームに」があります。商品を買って下さるお客様、関わってくれているお取引先様、そして、この会社に入ってくれた社員が、三田理化工業という組織を通じて幸せになれるように、さらなる飛躍を目指し続けます。

本社工場