歯科技工のDX -元歯科技工士のIT社長の挑戦-(株式会社フィールトラスト)
「知恵を絞りワクワクする世界を創り、多くの人にクオリティ・オブ・ライフを提供する」というフィロソフィーと、「常に現場の課題に目を向け、今までなかった解決方法を生み出し、一人でも多くの笑顔を作り出す」というミッションを掲げ、信頼あるサービスを生み出し続ける企業が、株式会社フィールトラストです。
主にITの力で新たな価値を世に提供してきた同社が次に狙うのは「歯科技工士」の世界。業界が全く異なる同社がなぜ、そこの課題解決に挑むのか。
クラウド環境の構築技術という強みを生かし、業界の労働環境変革の新サービスを開発する姿を追いました。
IT企業が歯科技工士の業界を変える
改めて、皆様は歯科技工士という職業をご存じでしょうか。
歯科技工士とは、歯科医師の指示に基づき、義歯や入れ歯などを作る国家資格が必要な専門職の人です。
そんな歯科技工士という職業ですが、今、低収入や長時間労働などの背景から、なり手不足が深刻化し業界としても大きな課題になっています。「このままでは業界自体が先細りしてしまうかもしれない」、そんな業界の危機を救うべく、歯科技工士の業界変革に株式会社フィールトラストは挑みます。
歯科技工士向け新サービス誕生のきっかけ
同社はホワイトハッカー(※)をはじめとした腕利きのエンジニア、プログラマーを有するIT企業です。特に、セキュリティの強いクラウド環境を構築する技術に強みを持っています。
そんなIT企業である同社が、異なる業界である歯科技工業界へ進出するきっかけは3つあります。
1つ目は、同社代表の野田社長の「原体験」にあります。実は、野田社長ご自身が元歯科技工士のキャリアをもっており、業界の厳しい労働環境から歯科技工士の道へ進まなかった過去を持っています。
この原体験はIT業界に転身したあとも社長の心に残っており、いつかこの業界を変えたいという強い想いを持ち続けていました。
2つ目は、「既存事業による安定的な収益の確保」です。同社は、既存事業で経営基盤を強化することで、新規事業への投資余力を生み出すことができました。だからこそ、野田社長の長年の想いであった歯科技工業界を変えるサービス開始に着手することができたと言います。
3つ目が、「事業再構築補助金」への採択です。奇しくもコロナ禍という状況でしたが、長年の想いが実現できる環境が整ったまさにそのタイミングで同補助金に採択されたことは、やろうとすることの方向性が間違っていないという自信にもつながり、新事業への大きな後押しとなりました。
「歯科技工士の心と、IT技術の両面を持つ自分だからこそできることがあるはずだ。」この強い思いは同社を設立して14年間、野田社長からひとときも消えることはありませんでした。
購入ではなくて「共有」へ
野田社長は、歯科技工士にとってこのサービスは「画期的な業務効率化を図れるもの」と表現しています。
歯科技工士業界の大きな課題のひとつである「長時間労働」、この原因は、歯科技工士が入れ歯などを歯科医師からの指示書に基づき、手作業で作ることにありました。
そこで、CAD/CAMシステム(※)等のデジタル技術を導入すると、歯科技工士の業務時間は約1/3に短縮されることが見込まれるので、劇的に業務効率化を実現できる余地があります。
しかし、そのシステムを使用するには高スペックなパソコンが必要になるため、システムを購入する費用だけでなく、パソコン購入も含めた高額な初期投資が必要になります。多くの歯科技工士にとってはなかなか手に届きにくい夢のシステムでした。
そこで同社は、CAD/CAMシステムが利用できる環境を組成し、それを歯科技工士にクラウド上で「共有」できるサービスを構築しました。歯科技工士の初期投資を極力減らし、誰でも容易に利用できるようにしたのです。「購入」から「共有」へ、時流に即したサービスへと昇華させています。
「変化を恐れないマインド」が切り開く未来
野田社長が掲げる歯科技工士の業界変革はこの新サービスの提供だけでは終わりません。歯科技工士の収入アップを目指して、新しい入れ歯市場創出の検討も始めています。
取材の中で野田社長は、次々とこれから挑む新しい事業案を語ってくれました。様々な可能性あふれるアイデアが出てくるその背景は、ひとえに、日頃から業界や社会の本質的な課題を見抜き、その業界・社会のことを本気で考えているからでした。
もちろん、新事業に挑むことは簡単ではなく、厳しい壁にぶち当たった時もあったと言います。しかし、そんな壁も「歯科技工業界をなんとしても変えたいという強い想い」、これがあったから乗り越えられた、そう野田社長は語ります。
既存事業の安定に留まらず、常に経済社会の変化を捉え、社会や業界の課題解決を目指す「変化を恐れないマインド」、同社は事業再構築にもっとも大切な要素を持っていたのでしょう。
そんな素晴らしいマインドを持った野田社長は、腕利きのエンジニア達とともに、歯科技工業界の明るい未来を築いてくれるに違いありません。
KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]
経済産業省近畿経済産業局は、近畿2府5県(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)における経済産業省を代表する機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。年間 1,000 件以上にも及ぶ企業訪問を通じて、未来に向けて躍動する関西企業を発掘し、そんな企業の挑戦を、より良い未来を見据えた変化への「兆し」と捉え、「KIZASHI[関西おもしろ企業事例集 - 企業訪問から見える新たな兆 (きざし)]」として、とりまとめています。
2023年2月に発表された「KIZASHI vol.21 『事業再構築で動き出すそれぞれの未来』」では、「事業再構築補助金」を活用しながらコロナという大きな危機を超えるため、ありたい姿と未来に向けて挑戦する中小企業9社にインタビューを実施し、補助金だけではない成長に向けたヒントを特集しています。
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/jirei/jirei21.html